第1058話 ■洋楽の頃

 年の近い人に対して、「初めて聞いた洋楽は何でしたか?」と聞くことがある。「どんなテレビを見ていましたか?」ではなく、「どんな洋楽だったか?」という聞き方をする。テレビだと幅が広すぎて、仮面ライダーとか出てきそうだが、あまり会話が弾むことはない。何故洋楽か?、というと、だいたいそれが多感な中高生の頃で、聞き始めたなりの何らかのきっかけがあるだろうからだ。もちろん、洋楽なんか聞かなかった人もたまにはいる。

 私も中学から高校の間はいろいろと洋楽を聞いた。「ベストヒットUSA」を始め、プロモーションビデオを流す番組が地方でも深夜には見られるようになった。洋楽を聞くことはどこか大人びていて、格好いい感じがした。貸しレコード屋もこのあたりから街に姿を現し、学校にLPサイズの袋を持っていくことが格好いい時期でもあった。袋を見つけ、「なかみ何?」と聞く。そこで洋楽のレコードを出すと○。松田聖子なんか出てくると、そんな奴とは話をしたくなくなる。一方、お金のない者はFMラジオへとそのソースを求め、オンエアーされる曲が掲載されているFM雑誌を買ったりした。

 しかし、私たちの世代は遅れてきた世代である。ロックの王道と言うべきスターやグループは既に一線を退いていた。ツェッペリンもディープパープル(後に一時期復活したが)も、クィーンも。かろうじて、TOTOやジャーニーのリアルタイムに間に合ったが、こちらは後世にまで影響を与えるほどにはならなかった。当時は私が好きなアメリカンロックよりもイギリスの軽薄ロックが流行っていた。カルチャークラブやデュランデュランのようにね。今思えば、ビジュアル系だったわけだ。マイケル・ジャクソンもマドンナもこの頃だった。

 それと同じ時期に新しい音楽のジャンルが登場した。AORと記されたそれはアダルト・オリエンテッド・ロックの略だった。ロックと言いながら激しさはない。はっきりとした定義が分からないまま、「聞いていて気持ち良い曲」と理解していた。クリストファー・クロスやボズ・スキャッグスなどなど。随分長い間、私はボズ・スキャッグスをボブ・スキャッグスだと思っていた。

 昨今、オムニバスCDが流行っているが、AORのものも出ている。リアルタイムに自分が聴いた曲や自分が持っていたレコードのジャケットをそこに見るのはやはり嬉しい。

(秀)