第1087話 ■尊氏&頼朝

 歴史という学問は新たな発見で書き換えられることがしばしばある。以前もこのコラムで書いたが、考古学の範囲となると、とみにこの傾向が強い。また、何も考古学の範囲でなくても書換は生じている。10年以上前に学生時代を送った人には馴染みのあったであろう、あの「足利尊氏」の肖像画が実は別人だったと分かった。

 他の人物の肖像画はバストアップぐらいの顔を中心とした構図で掲載されていたが、この「尊氏」の肖像画は全身どころか、またがっていた馬までおさまるような引きの構図と決まっていた。テストでこの肖像画が出て、漢字で書けないから、×をもらい悔しい思いをした人も多いはず。それなのに結局そいつは偽者だった。多くの人を惑わせた、奴が一体何者だったの確認はなされているのだろうか?。それとも誰とも分からないほどのどこかの馬の骨に騙されていたというのか?。もちろん、彼自身が自ら「尊氏」と詐称していたわけではなかろうが。

 そしてついにあの「尊氏」の顔は今の中学校の歴史の教科書から消えた。そして私が見た長女のその教科書では「源 頼朝」の肖像画に「源 頼朝といわれている武士の肖像」とキャプションがついていた。これではアメリカのミュージシャンのプリンスが「かつてプリンスと呼ばれていた男」という意味の名に改名したときのようだ。

 そんな教科書のタイトルが「新しい歴史」というのが笑える。歴史はそもそも昔話ではないか?!。それとも、いつも書き換えているから「新しい」と開き直っているのか?。私が知る限りでも何度改版しようとも20年以上はこの名前を使用しているような気がする。

(秀)