第111話 ■夢の説教マシーン

 読者(女性)から私がその人の夢に現れたというメールをいただいた。ただその内容というのは、その女性の会社にわざわざ私が現れ、そこの社員の行動を逐一観察して、事細かなことまでにダメ出しをしているというものであった。これではまるで説教マシーンではないか。そのメールは「今朝起きたときに倦怠感が・・・」と締められていた。彼女には迷惑な話であるが、私が意図的に彼女の夢に忍びこんだわけではなく、詫びるべきかどうか途方に暮れてしまった。別に彼女に説教した覚えなど無いが、夢に見てしまうということは彼女の深層心理の中で私は説教マシーンと思われているのだろう。

 私のかつての上司は飲んだときに説教マシーンになる確率が高い人だった。最初はいろいろと持ち上げてくれるが、突然、「けどな、…」なんて切り出しで始まる。となるともうただひたすらに聞くに徹するしかない。機嫌を取ろうとして酌などして酒が進むとマシーンはますます加速して、ペシペシと叩かれたりもする。

 ある脚本家のエッセイで、説教する人のプロファイルらしいことが書かれていた。説教する人というのは年齢に関係なく、ものごとに関するカテゴリー分けができていることが重要らしい。しかし、酒の席のせいか、説教マシーンの説教があまり論理的であったためしがない。論理的に袋小路に行き当たることで、マシーンが止まり、解放されることもある。むしろ、説教マシーンはカテゴリー分けが中途半端な人の方が多いような気がする。説教マシーン同士の会話というものに出くわすこともあるが、どうでも良いことを盛んに言い合っていたりする。逆にしらふの説教マシーンというのがもっとたちが悪そうだ。

 冒頭の読者には途方に暮れたあげく、「今夜も夢に出てやる~」と返信しておいたが、どうやらそれ以来夢には出てこないらしい。