第1181話 ■映写機

 映写機は少年達のあこがれだった。それは映画館のそれよりも、学校や集会所で臨時に設けられた空間においてのそれがより気持ちが強い。身近なところでカタカタと音を立ててリールが回っているからだろう。レンズから放たれた光とスクリーンの間に小さなゴミが飛んでいた。

 映写機にかつての我々の関心が高かった理由は主に2つだと思う。まず第一に非日常であること。それだけで有り難味がある。体育館に暗幕が引かれることなど、この日をおいてない。そしてもう1つの理由は映写機がメカニカルであること。電気的に信号が画像として投影されているわけではなく、リールに巻きついた巨大なパラパラ漫画の要領の画像が光によって投影されているメカニズムが具体的であり、関心を引くのに丁度良い。

 かつて映写機のおもちゃがあって、カセット式のフィルムをセットし、ライトを点け、クランクを回すと画像が動いた。モスラが東京タワー周辺を旋回する画像だったような。パッケージの蓋がスクリーンになっていて、10インチくらいの映画が手軽に楽しめる。但し、音声は出ない。「カセット、ポン!。後はハンドル回すだけ」というコピーは覚えているが、このおもちゃの商品名はあいにく失念。

 大型薄型テレビよりも私はプロジェクターの方に惹かれる。しかし、投影される映像はDVDなどからの電気信号であり、メカニカルではない。それにホームシアターなどという代物は非日常を日常なものへ変えようという試みである。ローテクで不便なもの、それに非日常的な方が有り難かったりする。

(秀)