第1220話 ■格闘技世界一決定戦

 私の記憶が確かであれば、あれは私が小学四年生の時のこと。だから、29年前のことになる。アントニオ猪木とモハメド・アリとのプロレス対ボクシングの格闘技世界一決定戦。この日は土曜日で、学校が終わった後、学級壁新聞を作るために集まった友達の家で、新聞そっちのけでこの戦いを観戦した。

 数日前からマスコミなどでは大騒ぎだった。「世紀の対戦」なんて触れ込みもあった。小学生の私でさえ、「アリはこの日、通常の半分の4オンスのグローブを使用する」、なんてことまで知っていた。早いパンチが出せるし、ダメージも大きくなる。少年雑誌の受け売りだったが。それにこの試合のリングサイドの値段が異様に高かった(確か30万円)と記憶している。

 さて、試合の方であるが、試合開始のゴングとともに猪木は仰向けにリングに寝転がってしまった。これではアリは猪木を殴ることができない。そして、猪木は寝そべったままアリの足に蹴りを入れる。アリの動きに合わせて回転して足の向きを変える猪木。何とも地味な構図である。来るラウンドも来るラウンドも相変わらず猪木は寝たまま、蹴りを出すだけ。確かに殴られない絶好の戦い方であろうが、こんな戦いっぷりを見たいと思っている人は誰もいない。

 結局試合はドローというすっきりしない結果と終わった。高額まではたいてリングサイドで観戦した人の不満はいかばかりだろうか。それに引き換え、ファイトマネーは相当だったらしい。この試合、最後付近で猪木は立ち上がったような、なかったような。この辺の記憶がどうも曖昧になってしまっている。これを機に猪木は異種格闘技戦として柔道家や空手家と様々な試合を見せてくれた。

(秀)