第1229話 ■物欲の振り子

 本格的に写真撮影を楽しもうとすると一眼レフカメラというの一般的だが、その一方でレンジファィンダーというカテゴリーのカメラがある。その代表選手は「ライカ」で、レンズ交換ができる。学生時分、このライカが欲しくて欲しくてたまらなかったが、いざ就職して実際に買ってみると、持っていることのうれしさはあるものの、そこから生まれてくる写真は従来のままで、気が付くと腕時計の支払代金に当てるために手放していた。

 当時私が持っていたカメラは優に10台は超えていて、レンジファインダー機についても別の2台で特に不便はなかった。その一つがコニカのヘキサーというカメラでこれはレンズ交換はできないものの、レンズの発色が非常に気に入っていて、おまけにオートフォーカスだったために、同じ焦点距離のレンズを付けた(そのレンズしか持っていなかった)ライカを使う機会がほとんどなくなった。私がライカを手放す気になったのはこれも理由の一つである。

 そして使用していたもう一つのレンジファインダー機はキヤノンPというカメラで、これはかなり古いもので露出計が付いていないため、モノクロ写真の専用機として使用していた。このカメラはファインダーの倍率が等倍とあって、文字通りファインダーの向こうの像が小さくならずに見えるため、ピントが合わせやすいし、等倍というのは生理的にも良い。但し、ヘキサーもこのPもパソコン等の購入代金のためやデジカメの進出により手放してしまって、もう手元にはない。

 さてさて、ここに来てまた物欲がうずいてきた。国産のレンジファインダー機で等倍のファインダーを持ち、ライカのレンズが使用できるカメラが発売されていることを知った。おまけに値段も実売が6万円台とライカに比べると格段に安い。絞り優先の自動露出も付いている。私にとってスペック的には非の打ち所のないカメラである。早速欲しくなってしまった。

 と、ここまで原稿を書いたところで、実際に物を見に行ってきた。手にとってみると予想していたよりもコンパクトながら、ずっしりと重い。ファインダーを覗くと確かに等倍だ。ただ、ピントが合わせづらい。店の中のせいだろう。シャッターを押す。「バシャッ!」。あれ??。もう一度押す。「バシャッ!」。この音はいただけない。下品すぎる。それに音がでかい。これでは使用していてストレスが溜まりそうだ。レンジファインダー機はシャッター音が小さいことも特徴の一つで、ライカに至っては絹の音とまで形容されている。小さい音で「カシャッ」といかなくては。どうしてこんな大事なところで手を抜くのか?。

 一気に買う気が失せた。そっとカメラを店員に返し、売り場を離れた。物欲の振り子は一旦振れてまた戻ってきた。

(秀)