第133話 ■納豆的達人

 おそらく10年ぐらい前のことだと思うが、はっきりといつ頃だったか特定できない。金曜日の夜11時から、TBSの30分番組で「噂的達人」というのがあった。司会は小堺一機と山口美江で毎週一人のゲストが登場し、そのゲストがもう一つの顔として、さもその分野の達人のごとく、どうでも良いようなちんけなことに淡々とうんちくを語る番組だった。番組タイトルは「噂の達人」と読む。だからこのコラムのタイトルも「納豆の達人」と読んで欲しい。「鉄人」という言葉はこの番組が放送された後に出てきたため、そういう点では多少の影響を与えているようだ。

 番組の方は、確か1クール、10回ぐらいで終了したと思う。いつの間にか気が付くと終わっていた。普通の対談番組とは異なり、カメラワークには手間暇を掛けたことが特徴で、カメラ目線ばかりでなく、横顔のアップなど頻繁にカメラが切り替えられ、話している内容のキーワードがテロップで現れたりする。最近は邪魔なくらいテロップが入る番組が増えたが、私の記憶ではテロップが入り出したのはこの頃からで、結構新鮮で、どうでも良いようなことが演出で妙に説得力を持つものだと感心した。

 その日のゲストは伊東四朗。テーマは納豆の達人であった。これがまた、どうでも良いようなことを達人とばかりに熱心に語る。

「納豆に卵を入れるのは邪道だ」(伊東)

「それはまたどうしてですか?」(小堺)

「たんぱく質とたんぱく質をあわせてどうする」(伊東)

といった具合である。この他にも「箸は右に回す」、カラシはどうだ、ダシを入れるタイミングはどうだ、という具合にうんちくは進む。特に私にはどうでも良い話である。納豆が嫌いだから。要は悪ノリのアドリブで進んでしまう、良い意味で肩の力の抜けた番組だったと思う。しかし、結構見ていた割には後には何にも残らず、伊東四朗の回以外に、誰がどのような話をしていたかは覚えていない。