第134話 ■たいやきやいた

 今回のタイトルは回文である。たいやき型のモナカアイスを食べながら思い出した。「一度だけたいやき焼いたことがあったなあ。それも大量に。よし、コラムに書こう。タイトルは『たいやきやいた』だ」。ざっと話は12年程前の大学時代に遡る。

 うちの大学は年に2度、学園祭をやるところだった。とは言ってもなにぶん田舎のお金の無い大学のため、コンサートにタレントが来るようなことはまずない。学生達が自分等だけ楽しければ良い、と言った感じの学園祭である。春先は新入生の親睦のための性格が強く、学科でのクラスなどで模擬店を出したりする。その模擬店でたいやきを焼いたわけであるが、自分のクラスで模擬店を出したわけではない。後輩が模擬店を出すというので、段取りからいろいろと手伝ったことのなりゆきでたいやきを焼くことになった。

 通常この手の学生がやる模擬店というのは、機材一式がレンタルでき、誰にでも簡単にできるものと相場が決まっている。金魚すくいやかき氷、がんばって、クレープやタコ焼きぐらいであった。ただこの時は、他では無いものを狙ってたいやきになった。早速、そういう焼き饅頭系の材料を扱っているところに電話すると、一台だけ貸し出せる焼き台があるということで決定された。

 当日、模擬店の仕込みも終わり、数人が試しに焼いてみるがなかなかうまく焼けない。交代で何人かやってみる間に、面白がって特別に自分にも焼かせてもらったら、それが一番うまく焼けた。そして、まぐれかどうかもう一度焼いているうちに、お客さんが来てしまい、しょうがないのでそのまま私が焼くはめになってしまった。まんざらではないけど。味はそこそこまともだった。しかし、見てくれが良くない。焼き台の片方は確かに鯛の形にえぐれているが、もう片方はフラットな鉄板なのだ。おそらく修理してそうなったと思う。当然、焼き上がったたいやきは全て魚の形が見えるように同じ向きに並べるが、店先で焼いているのが見えるためバレバレだ。それでも珍しさからか売れ行きは好調だった。さらに、焼き台にはもう1つの欠点があった。一度に5匹しか焼けないのである。次々にお客さんの列は長くなるが、1個40円(小ぶりだったから)だったため、一人で「5個」なんてオーダーが平気で入る。その夜に普通の人が一生の間に食するであろう、たいやきの量を私は焼いたことだろう。もちろん、しっぽまでアンたっぷりにして。