第1343話 ■裁判傍聴記(1)

 今週はちょっと遅い夏休みで、平日も自由な時間がある。まあ、いろいろとやりたいことはあるが、その半分もできれば良いうちだろう。そんな中、ぜひ行って見たいものに裁判の傍聴があった。平日にしかいけない。たまたま朝の予定がキャンセルになったその日、近くの地方裁判所の支部に出かけてみた。

 玄関を入って、館内の地図を確認する。支部ということで、公判用の法廷は3部屋のみ。玄関付近に傍聴に関する案内が出ていると思ったが、そんなものは何もない。やはり見るなら刑事事件だろうと、エレベーターに載って、この日、刑事事件が予定されている階に移動した。その階には2つの法廷があり、この日、民事と刑事にそれぞれ一部屋ずつ割り当てられていた。そしてそこに傍聴に関する注意書きとともに、本日の開廷予定の紙が掲示されていた。

 注意書きによると、誰でも、いつでも、自由に傍聴できるとある。但し、ハチマキやゼッケンはいけないなどが書かれている。傍聴入口の扉には、中が見える覗き窓の小さな扉が付いている。開廷予定には裁判官と書記官の名前のほかに、それぞれの開始時刻と罪名、被告人名、新規・継続の区別等が書かれている。

 この日、午前中の案件はまず外国人被告による不法滞在と道路交通法違反。2つ目が強制わいせつ。そして3つ目が、覚せい剤と道路交通法違反および窃盗である。時間はそれぞれ40分取られている。思ったよりも短い気がした。開始までまだ時間があったので、一旦別の階でジュースを買って、飲んで戻ると、法廷の前のベンチに一人の男性が居て、近づいてくる私に気が付くと私に会釈してきた。私も会釈を返す。傍聴マニアか?。

 間もなく法廷が開場され、その男性と私は法廷の中に入った。中はドラマなどで見るまさにあのままの作りだった。正面に裁判官、その下に書記官。傍聴席から向かって右側に弁護人、左側に検察官。証言台は中央にあり、傍聴席の前方には柵がある。先ほどの会釈の男性は柵の扉部から中に入って書記官の横の席に座った。後から分かったことだが、彼は最初の裁判の通訳だった。

 やがて検察官がドラマのように風呂敷包みを抱えて現れ、弁護人もやってきた。そして開廷前3分。被告人の入場である。手錠と腰紐で警察官に連れられ、眼光鋭い東南アジア系の青年だった。定刻を少々過ぎて裁判官入場。裁判が始まる。進行はドラマなどで見ている通りだった。これに今回は通訳が付く。期待していた「異議あり!」、「誘導尋問です」などのやり取りはなく、被告人も弁護人も起訴事実を認め、情状酌量を狙う作戦のようだ。

 滞在期間が切れた状態で、無免許で自動車を運転していたところを現行犯逮捕されたものだった。通訳を挟んでのやり取りは手間ながらも、求刑が行われ、40分で結審した。争わない軽微な犯罪の場合はどうもこうらしい。そして早速の判決、緊張の一瞬。求刑懲役1年6ヶ月に対し、懲役1年6ヶ月執行猶予3年の判決。入廷するときは警察官に連行されてきた被告人だが、帰るときは入国管理局の係官に連行されて行った。この公判、傍聴人は自分ひとりだった。

 この傍聴記録、しばらく続く。

(秀)