第1365話 ■スピログラフ

 私がそれを初めて見たのは、子どもの頃の祭りの露店だった。テキヤの兄ちゃんが、ギアの付いた穴にその穴より小さい歯車をセットし、小さい歯車の方の穴にペン先をセットし、歯車を噛み合わせて、小さい歯車をグルグルと回すと、綺麗な楕円が幾重にも重なって花の絵が出来上がる。いかついテキヤの兄ちゃんがグルグルやって、綺麗な花の絵ができるギャップが特に面白かった。

 祭りの露店の最前列で見ていると「やってみるか?」とテキヤの兄ちゃんが私に勧めてきた。真似をしてグルグルやってみると、自分にも同じように綺麗な楕円の重なりができた。やってみると、見ているよりも数倍面白い。早速買い求めたが、そのときの金額は安っぽいボールペンも付いて、200円だか、300円だったと思う。比較対象としては、袋入りの綿菓子が当時は同じぐらいの値段だったと思う。飽きずに数日はグルグルと一人で遊んでいたような気がする。

 これは、スピログラフまたはデザイン定規と呼ばれているらしい。本体の定規には2つの大きなギアの付いた穴があり、小さい歯車にはペン先をセットする穴が、らせん状にたくさん並んでいる。ペンを差し込む穴の位置で出てくる絵の形はもちろん異なる。

 私が祭りでこのスピログラフ(もちろん、そんな名前なんか知らない)を見てからしばらく後に文房具屋でも見たことがあるので、この商品を見たことある人は多いだろうし、実際に買って遊んだ人も多いのではないかと思う。もちろん、今でも売っている。ただ、それほど流行ってはいない。

(秀)