第1374話 ■ちりとてちん

 最初、「ちりとてちん」と言葉を聞いたときには、落語の演目のそれだと思っていた。その日の碁会が急に中止になってしまい、料理が残ってしまった。そこでご隠居がへそ曲がりで知ったかぶりで愛想のない寅に声をかけ、食事に招待するが、寅は文句を言いながら料理を食べる。そこでご隠居は準備していた、腐った豆腐に七味唐辛子を掛けビンに入れたものを「これは台湾名物の『ちりとてちん』だが、知らないだろうね」と差し出すと、「知ってますよ」と、寅はやせ我慢をして食べてしまう。ビンのふたを開け、口に入れる前後の有様をいかにリアルに面白く描くかが噺家の腕の見せ所である。「で、どんな味がするんだい?」とご隠居。「豆腐の腐ったような味」というのが落ちとなる

 ところが最近は同じ落語の話でも、「ちりとてちん」というとNHKの連続テレビ小説をイメージするようになった。これまで、NHKの連続テレビ小説を見る習慣などないから、最初は気にもしていなかったが、女性の落語家がテーマで、話も面白いということを知人に教えられて私も見ることにした。なかなか面白い。主人公は映画「スウィングガールズ」でトランペットを担当していた貫地谷しほりだ。オーディションで選抜されたらしいが、なかなか良いキャスティングだと思う。

 高校を卒業した主人公が自分探しのために大阪に出てきて、落語家の師匠と弟子と生活を共にする。もともと祖父が落語好きだったという伏線もある。この転がり込んだ先の一門が普通ではない。師匠は3年前の一門会で高座に穴を空け、大阪の大手芸能プロダクションから干され、今では高座に上がれなくなってしまっている。しかも、酒浸り。二番弟子の草々だけが師匠を慕って、師匠のそばにいるが、そのせいで彼も寄席の高座に上がることができない。

 最終的には主人公の喜代美が女流落語家になるとのことだ。現在、女流落語家は東京と上方で20人ほどいるらしい。しかし、問題は彼女が締め出しをくらっている徒然亭一門の噺家として高座に上がることができるかどうかである。まあ、それはうまくいくだろう、ドラマだから。そして、彼女は高座で「ちりとてちん」の噺をやるのだろうか。そもそも「ちりとてちん」とは三味線の音から来ているタイトルらしいが。それにしても、本当に落語ブームだねえ。

(秀)