第1390話 ■長袖体操服

 季節的に学校の体育は冬ということで、持久走なんてもんをやる時期だ。これが苦手とか、嫌いという人は結構多いはず。私もまさにその一人であった。ただ黙々と走るっていうのは、やはりつらい。スタート前は「一緒にゆっくり走ろうね」などと約束していても、スタートとともに猛ダッシュしていく友人の背中を何度も目にしている。例えスタート時は平穏であっても、ゴール前での猛ダッシュも目撃している。良い思い出など一切ない。

 末娘が通う小学校も、明日開催されるマラソン大会に向け、子ども達が日々昼休みや業間休みも校庭を走り回っている。本番には江戸川の土手を学年別男女別に一斉に走り、着順が決まる。その模様は保護者等にも公開され、毎年多くのお母さんたちが応援に駆けつけている。

 我が家人は週のうち数日、近くの制服屋にパートに出ている。このため、街を歩く制服姿の中高生を見て、その学校をズバリ言い当てるような特技を身につけている。一方、この店は制服以外に学校指定の体操服なども売っている。

 さて、マラソン大会を明日に控え、娘はやや風邪気味である。そこで家人は「今日、長袖の体操服を買ってきてあげるから、明日はそれを来て走りなさい」と言う。私達の頃も長袖の体操服は存在したが、マイナーな存在であまり着ている人は少なかった。しかし、本当に寒い時は長袖体操服を着ている人がうらやましかった。娘は「いらない」と言うが、家人も「着て行きなさい」と譲らない。

 家人には策略がある。1年生は長袖体操服を持っている比率が低い。中には長袖体操服の存在を知らない保護者もいるだろう。マラソン大会には多くのお母さんが応援に来る。そこで娘の長袖体操服が彼女たちの目に止まれば、長袖体操服を買いに来る人が増えるのではなかろうかと。

 明日、我が娘は広告塔となって江戸川の土手を走る。

(秀)