第1477話 ■雨やどり

 かつて少年期の私にとって、さだまさしは面白い歌を歌う人だった。グレープ当時の「精霊流し」という曲も知っていたし、「無縁坂」といった曲の存在は知っていたが、「雨やどり」という曲の面白さのイメージが強く、面白い歌の人として刷り込まれていた。「雨やどり」は、当時私のお気に入りの曲で、初めて聞いたのはラジオだったと思う。どうしても歌詞を覚えたくて、ラジカセに録音しては何度も聞いて、おまけにジュークボックスで掛けてみたりも何度もした。

 無事に歌詞を覚えたからにはいよいよ発表である。小学校5年の時、遠足のバスの中で順番に回ってくるマイクを持って、この曲を淡々と歌った。何しろこの曲は長い、しかも歌詞がストリー仕立てになっているので、途中で止めては意味が分からない。ラジオでこの曲が流れてきたは良いが、途中でフェードアウトされたときの空しさはこの上ない。よって、バスの中では歌詞の全部を歌わないと意味がない。ちょっとしたライブショーだ。

 当時、さだまさしは小学生には遠い存在で、普通の小学生はこの曲のことなど知らず、バスの中で私が歌うことで始めてこの曲のことを知った者が多かったと思う。歌詞に合わせて車中からは笑いが起き、私は調子に乗って歌い進む。そしてもうそろそろ終わるかという頃、先生に「もういいじゃない」みたいな、暗に「早く終わりなさい」ということを言われた。

 そんなことにもめげず、もちろん私は完唱した。

(秀)