第1591話 ■「時そば」で考える江戸時代の時間

 落語の「時そば」をご存知だろうか?。ある男が屋台でそばを食うのだが、この男、そばが出てくるタイミング、器、出汁、麺、具のちくわ、ついでに割り箸までも褒めちぎる。そして勘定を払う段になって、「細かいのしかないから」と1文銭をそば屋の主人の手に渡していく。当時の屋台のそばの値段はどこの店でも16文と決まっていた。8文まで払って、「今何時(なんどき)だい?」と尋ねる。そば屋は「九つ、です」と答える。そこで客は「10、11、12...」と続けて、1文ごまかす。

 これをそばで見ていた与太郎。さっきの男がうまく1文ごまかしたことに気が付いて、早速自分もやってみたくなる。明くる日、与太郎の前に現れたそば屋は、うって変わって何ら褒めようのないそば屋である。それでもまあ、そばを食い終わって、いざ勘定と、昨日の男のようにやってみたところ、8文まで払った後、時刻を尋ねるが、「四つ、です」と言われ、「5、6、7...」と損をしてしまう。

 与太郎はネタを仕掛ける時刻を間違ってしまった点にこの噺の面白さがあるわけだが、実際に九つと四つの違いがどれほどかというのが分かった方がより楽しめる。江戸時代は日の出と日の入(または夜明けと日暮れ)の間をそれぞれ6等分する不定時法が用いられていた。そして、当時の時法では、まず最初の男が仕掛けた九つ(暁九つ)と言うのが今の午前0時頃を指し、四つ(夜四つ)が午後10時頃を指す。与太郎は仕掛けるのが2時間ほど早すぎたというわけだ。

 この時そばという噺はこのように四つと九つがつながっていることを理解しておくと余計に面白い。けど、本当の面白さは噺家さんがそばを食べる所作にあると思う。落語の世界はまだまだ奥が深い。

(秀)