第1607話 ■無人駅

 母親と一緒におじいちゃんの家に行くのにはいつもディーゼルカーだった。当時それがディーゼルカーであることなど知らず、汽車と呼んでいた。明らかに電車ではなかった。1時間に1本あるかないかの、3両編成の単線で、それに4~50分揺られた後に、今度は電車に乗り換えた。

 ディーゼルカーの床はオイルを引いたような板張りだった頃があったと思うが、それほど明らかではない。冷房がないので、夏は窓を開け放ち、けど冬は足元からのヒーターの熱で心地よかった。降車の際は扉が自動では開かないので、ハンドルを握って自分で開けるしかない。しかし、閉まるときは自動だ。

 私が乗り降りしていた最寄の駅はあるときから無人駅になり、向かいの商店で切符を売るようになった。人がいないから駅員もなく、小学生の頃には、改札からホームへの階段で遊んだりもした。ホームの改札寄りの端には、切符の回収箱が設置されていて、降車した人が使用済みの切符を入れるようになっていた。

 当時、まだ硬券の切符があったと思う。切符の回収箱には鍵が付いていたが、取り出し用の扉にはわずかな隙間があって、棒のようなものでかき出せば、切符を取り出すことができた。牛乳瓶のふた、酒瓶のふた、コカコーラの王冠のごとく、少年は何でもないものを集めたがる。切符、しかも硬券はそのアイテムだった。

 熱心に棒で切符をかき出そうとすると、中に10円玉が何枚か入っていることが確認できた。後から分かったことだが、乗り越した人が不足金を切符の回収箱に入れていくケースがあるらしい。切符だけでなく、10円玉をかき出したこともある。それをどうしたかは、都合の良い事によく覚えていない(ということにしておこう)。

(秀)