第1693話 ■めがねせんせい

 今春、長女が高校を卒業して、幼稚園教諭になるべく、専門学校へ通い始めた。それから早数カ月。どのような授業が行われているのか、興味が湧くが、彼女の話では授業はあまり面白くないが、実習は楽しいらしい。

 入学して間もなく、下準備も何もないままではないか、とこちらが危惧するほど早くから、幼稚園での実習は開始された。付属の幼稚園があって、と言うか、幼稚園の中にその専門学校がある格好だ。それ以外にももう1つ付属の幼稚園があって、そこはやや遠距離になるため、そこに行く場合は、相当朝早く出かけていた。私と家人は学校や幼稚園での様子をいろいろと聞き出そうとしているが、娘はあまり答えようとしてくれない。やや、もったいぶっている感じすらある。

 幼稚園で子供たちは先生の名前を苗字ではなく、下の名前に「せんせい」を付けて呼ぶことが多い。そのために、ひらがなで名前を書いた名札も付けている。ところがどういうわけか、子供が娘を呼ぶときは、「めがねせんせい」と言うらしい。掛けているメガネの印象がよほど強いのかもしれない。何度か名前を教えても、最初は良いが、すぐに「めがねせんせい」になってしまうらしい。別にからかっているわけではなく、愛着をこめてそう呼んでいるらしく、他の実習の先生よりも娘は人気者なのらしい。精神年齢が近いのかもしれない。

 幼稚園の先生という仕事は結婚までの仕事かもしれない。結婚を機に退職する先生を何人も見てきた。果たして2年の歳月とそれなりの授業料なりを投資して、彼女がいったいどれくらいの期間働いてくれて、家計に貢献してくれるのか?、教育ローンくらいは自分の給料からちゃんと返してくれよ、なんて思ったりする。

 けど、自分から「幼稚園の先生になりたい」と言い出したことはとても嬉しく思っている。人を育てる仕事はとてもすばらしい職業だと思う。多くの子供たちと出会って、別れる度に泣いて、そんなことを何度か繰り返すことだろう。先日、実習の最後に子供たちが書いてくれたであろう絵をもらったようだ。見せてもらえない。そんな宝物がこれからたくさん増えることだろう。

(秀)