第1775話 ■氷柱

 暑い日が続いていて、エアコンがフル活動である。私は先週夏休みでずっと家に居たために、文字通り、フル活動であった。室内に居ても熱中症になる人がいるくらいなのだから、これもやむを得ない。私の部屋は天窓があって、この時期の日中は非常に暑い。日中はリビングに避難して過ごしていた。数字の上で言えば、昔よりも今の方が暑くなっている。地球温暖化とヒートアイランド現象によるものだろう。

 昔はエアコンなんてなく、家庭用は冷房だけのクーラーだったが、それでも私が小さかった頃は自宅にクーラーなんてなかった。うちだけでなく、周りのほとんどがそうだった。唯一幼稚園の頃からクーラーがあったのは、達ちゃんの家だけで、別に彼の家が金持ちだったわけではなく、むしろ家はボロで狭かった。なのに当時からクーラーが家にあるのは子供の目から見ても、うらやましかった。

 わが家にようやくクーラーが付いたのは、私が小学3年生のとき(35年前)だった。父親が仕事の関係上、いくつもの電気屋さんとつきあいがあったからで、貧しいわりには、周りと比べるとやや早かった感じだ。貧しいくせして見栄っぱりな父親は「クーラーを付けた」ことをことあるごとに、セールスも兼ねて自慢しては、電気屋さんを紹介していた。

 だからそれ以前のわが家では扇風機がフル活躍していた。特に夜は寝苦しく、家族5人がマクラを並べ、2台の扇風機が一晩中首を振っていた。そしてどうしても気温が下がらない夜には氷屋さんで氷を買ってきて、それを扇風機の前に置いていた。氷屋さんと言っても、近所の燃料店が兼業でやっている程度である。そこに母親が氷を買いに行くので、何度かついていったことがある。ちょっとした氷の柱である。それを当時200円とか300円とかで買っていた。毎晩というわけではないが、ひと夏にすれば、それなりの金額になる。

 父親のセールストークの一つ。「1日300円使っても、クーラーの涼しさにはかなわない」。暑い夜にこんなことを思い出した。

(秀)