第1778話 ■あいつが死んだ晩

 小学6年生のとき。当時、歌謡曲、いやミュージックに目覚めた僕らは、わずかばかりの小遣いからレコードを買っていた。当時僕らに人気だったのは、アリスにゴダイゴ、ツイストなど。レコードを持ち寄って、友達の家に集まったりしたもんだ。夏休み明けで始業式が済んだその日、まさに9月1日。友達の一人に「今日、レコード買いに行くからついて来て」と頼まれて、放課後の約束をした。その友人は当時アリスが大好きで、とりわけその中でも堀内孝雄が好きだった。「君の瞳は10000ボルト」がテレビCMとして流れてきたのは、この秋のことで、この日の前後だったような気がする。

 レコード屋に着くと、彼は早速、アリスのコーナーと堀内孝雄のレコードを見ていた。LP盤である。既にいくつかのレコードは持っていて、持っていないものを探していた。そこで見つけた堀内孝雄の新譜、「あいつが死んだ晩」というタイトルだった。あまりにもショッキングなタイトルで、縁起でもないと、私はその友人に買うのを止めるように話したが、彼はそんなことを気にせずにそのレコードを買ってしまった。

 翌日学校に行くと、確か3時間目か4時間目、その前の時間が町区ごとに児童が集まっての「町区児童会」の時間だったので、別の教室から自分の教室に戻ると、担任の先生が黒板に何か文字を書いていた。そこにはずっと学校を休んでいた、同じクラスの知子さんが、前の晩に亡くなったという内容のことだった。女子たちは寄り添って泣き出し、自分は昨日の友人と顔を見合わせ、眉をひそめた。まさにレコードのタイトルのようになってしまった。

 知子さんとは小学5年生のクラス替えで初めて一緒のクラスになったが、小柄な目立たない感じの子で、しかもそのときから既に学校を休みがちだったので、ほとんど接点はなかった。そして、6年生になってからはほとんど登校することなく、ずっと学校を休んでいた。先生が白血病だったと教えてくれた。告別式はそれから2日後で、クラスのみんなで参列した。そして、小学校の卒業式の日に、クラスのみんなで揃って、彼女のお墓参りに行った。

 2学期の始まりとなるとこのことを思い出す。堀内孝雄のレコードタイトルは暗示だったのかな?。32年前のことだから、ちょうど33回忌になるんだ。

(秀)