第1779話 ■野獣郎見参

 魑魅魍魎。書けないけど、読める。読めさえすれば、こうして文字が出てくるからパソコンは便利だ。さて、この魑魅魍魎とは我が長男が高校の文化祭のクラス演劇で演じた役だ。本人から事前に何も聞かされていなかったので、会場で配役の掲示を見たときには驚いた。せめて、人間の役を、と。幼稚園のときの生活発表会で演じた黄色鬼役以来、早十余年。立派に成長し、今では私を見下ろすまでになったにもかかわらず、またしても人間以外の悪役とは、何かの祟りか、因縁か?。

 クラス劇の会場は各教室で、外も内もスタジオの大道具の様に、いわゆる建込みがされていて、結構準備に余念が無い。息子が通う高校では、3年生は全クラスが毎年文化祭でクラス劇を行うことになっている。普通の演劇素人の生徒がセットや衣装をこさえ、演じて、演出もする。脚本はどこかで見つけてきたものを直して使用しているようだ。息子のクラスの演目「野獣郎見参」を先程ネットで検索してみたら、劇団☆新感線で演じていたもののようだ。ほとんどのクラスは時代物の劇を選んでいる。

 ステージと向かい合わせに、机を積み上げて、階段状の客席が作られていて、そこに80人くらいの観客を押し込める。今はエアコンが各教室にあるが、これだけの人が入り、照明もたくと、やはり暑い。やがて、セーラー服で女装した男子生徒が前説に現れ、上演中の注意事項を面白おかしく伝達して、劇が始まった。

 舞台は応仁の乱の後の京都。安倍晴明が呪術により、もののけ達を封じ込めた塚が応仁の乱で破壊され、もののけ達が蘇った。主人公の物怪野獣郎の他、安倍晴明の子孫の陰陽師や妖術使いなどがもののけ達を倒す話であるが、後半ややそれぞれの立ち位置が込み入ってくる。我が息子は結構早いところで登場した。魑魅魍魎という役ながら、あやかしの家来の戦闘員のような役回りで、とりあえず人間の格好をしていたから、一安心。早速切られてしまうが、その後も何度か同じ役で出てくるのは、そもそもが、もののけであって、死なない設定なのだろう。やはり、やられてしまうが、殺陣のシーンなども何とかこなしてくれて、再び安堵。

 やや、乱暴な展開があったり、迎合して変な笑いを入れたりした部分もあったりしたが、素人の高校生が頑張ったにしては、よく出来ていた。逆に、この手作り感が良いのかもしれない。とりわけ、主人公のキャスティングはぴったりだった。聞いた話では、最終公演では感極まって演者が劇の途中で既に泣いてしまっていたらしい。きっと、修学旅行以上の高校生活最大の思い出になったことだろう。受験勉強なんかよりも、今を一生懸命に生きようとして、好きなことに没頭している彼らを私は支持したい。

(秀)