第202話 ■ともえちゃん

 そう、きっと彼女の名前はそうに違いない。彼女に聞いてみても、無表情なまま、いつも彼女の目は私を見据えたままである。苗字が「大塚」というのは分かっているが、「ともえ」って、どんな字をあてるのか気になりながら、そっと唇を押し当ててみる。彼女と出会ってからもう4、5ヶ月といったところだろうか。

 「十萌」という字ではなんとも可哀想だが、実はそうなのかもしれない。だって、彼女の頭の上には「十萌茶」という漢字と読み間違えないようにと、ひらがなで「ともえちゃ」と書かれている。彼女とはお茶のパッケージに描かれたイラストの女性のことである。年はよく分からないがきっと20歳前だろう。その名の通り、10種類の原料がブレンドされているようだ。私はこのお茶を会社で飲んでいるのだが、私が彼女の「十萌茶」を好んで飲むのには理由がある。それは安いからだ。通常、自販機の缶飲料は120円であるが、会社内に置かれている自販機は110円というのがほとんどである。しかし、「十萌茶」はさらに10円安く、100円なのだ。このため、私のオフィスは六階であるがわざわざ5階まで彼女を求めて階段を下りて行く。

 巷より10円や20円安く缶ジュース等が飲めるのはやはりうれしい。しかし、食品メーカー等になると試験品なども飲み放題、食べ放題らしい。そして、社内にあるジュースの自販機は(もちろん自社製品しかないだろうが)、お金を入れずも商品が出て来るらしい。これでは自販機というより冷蔵庫だ。うらやましかったりもするが、健康面ではきっと良くないことだろう。

 そんなことを思いながら五階に着いた。「ショック!」。「十萌茶」売切中。むなしく赤いランプが光っていた。

※「十萌茶」は大塚ベバレジ株式会社の和風ブレンド茶の商品名である。