第238話 ■ウルトラマンのサイン

 もう一昨年前の話になるが、亀有駅を中心としたJR主催のスタンプラリーが行われた。その名の通り、「こちら葛飾区 亀有公園前派出所」をモチーフに、土日の2日間にわたって、沿線の派出所を訪ねてスタンプを集めるものだった。スタートはもちろん、亀有駅である。数日前から沿線の駅に貼り出されたポスターには「両さんも来るよ」と書かれていた。

 当日、亀有駅に降り立つと、いたいけな子供達とその保護者達で早くも行列が出来ていた。肝心の両さんであるが、予想通り偽物だった。何が本物か?、という疑問は当然であろうが、その両さんはあまりにも偽物過ぎた。彼もきっとJRの職員なのだろう。どういう基準で選ばれたかは分からない。髪が丸刈りだったというだけかもしれない。眉は墨で繋げられ、足はトイレ用の下駄、要はアニメでいつも彼が履いているそれであるが、妙に新しい。服装もJRの制服のようだ。彼は完全に浮いていた。出発する子供達に握手で激励しようとしているが、誰も手を出さない。しょうがないので、小さい子には頭を撫でるようになったが、うちの子供などはそれから逃れ、私の後ろに隠れた。「ほら、両さんだよ」と言うと、「だって、にせものだもん」と答える。

 今回は明らかな偽物であったが、カブリモノなら、本物も偽物もないだろう。ミッキーマウスはどうだ。仮面ライダーは?。しかし、カブリモノにも偽物はあった。いや、偽物ばかりである。私が小学2年生の時の話になる。スーパーの子供向けイベントでウルトラマンショーが行われた。特に怪獣と戦うようなショーではなく、店内を練り歩いた後にサイン会が行われた。この日現れたのは、セブン、タロウ、新マン(Jack)だったと思う。3人が席に座ると(この絵も想像すると面白い)、それぞれに列が出来てサイン会が始まった。料金は300円。もちろん、私もその列に並び、念願のサインを手にした。親切なことにサインは3つ書いてあった。3人とも他の2人分のサインまで書いてくれるのである。そのときは得した気分でうれしかった。

 しかし、他人のサインまで書いてしまうのは、彼らが兄弟であってもおかしい。所詮、中に入っている者からすれば、自分のサインでもないし。きっと、あの得体の知れないウルトラサインを相当練習をしたことだろう。例え騙されてもその代金以上に笑ったし、こうしてコラムのネタにもさせてもらったので満足。