第255話 ■青い赤

 最近見たドラマで面白かったものについて話したい。ただし、このドラマは番組改編期の単発ドラマだったことを承知願いたい。

 広末涼子が青木つぐみというペンネームで小説を書く、小説家を演じている。つぐみは若い女性を対象にした恋愛小説を書く売れっ子作家であるが、素性を隠した覆面作家である。確かに売れてはいるが、それは編集社のお膳立てに従って書いているだけに過ぎず、本当に書きたいものは書かせてもらえない。

 ある日つぐみは何かに導かれるように、とある骨董店に足を踏み入れた。店の中のテーブルに同じ本が何冊も置いてある。それを手に取ると、奥から店番の桃井かおりが「その本、持ってって良いわよ。タダであげるわ」と声をかけた。本のタイトルは「青い赤」。著者は赤沢佐永子。彼女が自費出版した本だった。

 青木つぐみが素性を明かす、記者発表の席に桃井かおりが青木つぐみとして現れた。出版社の編集者は慌てるが、以降彼女が青木つぐみとして社会的に認知される。一方、留守の間、骨董店の店番を引き受けた広末の元に一人の女性が現れる。「この本が、置いてある店はここですか」。手には「青い赤」を持っている。「あなたが赤沢さんですか。この本、友達から薦められて借りて読んだんですけど、素晴らしいです。本格デビューとかなさらないんですか?」。彼女は誤解したまま、更に続ける。「この理想の青と現実の赤は決して混じり合わないというところが素晴らしいです」と。

 新たなつぐみ(桃井)はこれまで書き続けたキャリアをもとに精力的に仕事を続ける。そんなある日、店番をしていた広末の元に、またあの彼女が現れた。「赤沢さん、喜んで下さい。あなたの作品が賞を取ったんです」。彼女が持って来たのは文学誌で、文学賞の大賞のところには「青い赤 赤沢佐永子」と書かれている。「青と赤がついに混ざりあったんです。理想が現実になったんです」。文学賞に勝手に応募したものの、その彼女は誰よりもこの受賞を喜んでいる。広末は急いで桃井のところにこの事を知らせに行くが、彼女が癌で余命幾ばくもないことを知らされる。「今度はあなたが赤沢佐永子として生きなさい。それでおあいこよ」と、桃井が語る。

 桃井は結局、青木つぐみとして死んでいき、広末が赤沢佐永子として文学賞の受賞式に臨み、それを最後に赤沢佐永子は文壇から引退した。二人が入替ったことで皮肉にも二人とも文壇を去る結果となった。広末はもう一度今度は自分の書きたい小説で新たなスタートを始めるところでドラマは終わった。青木つぐみに赤沢佐永子。この名前の設定までも「青い赤」という小説のタイトルに掛けていたと気が付いたのは、このコラムを書き始めてからのことだった。