第496話 ■派遣さん つづき

 続いて紹介したい、B子さんの場合。彼女と出会ったのは8年前、会社で私が新しいプロジェクトに参加した当初に遡る。プロジェクトの最初の仕事はオフィス作りで、会議室だったところに、机を運び込むことから始まった。彼女に「この机を拭いてくれ」と運び込んだ机を指差して頼むと、「はい」という返事を残して、どこかに消えてしまった。しばらくして戻って来た彼女は手術前の執刀医の如く、ゴム手袋をはめていた。すぐに手が荒れるとのことで、掃除用のゴム手袋は欠かさず持ち歩いているらしく、更衣室に戻って、それを手に現れたわけである。もちろん、水仕事が終わった後にはハンドクリームをヌリヌリしていた。

 その後、何故かテレビの話題になり、「みんなの家のテレビは何インチ?」という問に、彼女は「あれはテレビじゃないし…」と言う。よく聞くと、テレビはないけどプロジェクターがあるということが分かった。プロジェクターがあるということはリビングが相当広いということである。「アップになると、人の顔がこんな大きく映るんですよ」と、手を広げて教えてくれたところで、急に場が冷めて、この会話は終わった。

 派遣さんにこれまでどんな仕事をして来たかを聞くのはお決まりのことである。「以前は、父の会社で働いていました」。さらに話を聞くと、モデルハウスの現地での受付と言うか、案内員をやっていたらしい。通勤が大変で、特急電車を利用していたこと、しかもグリーン車だったことにはたまげた。これでは給料よりも通勤費の方が高いに決まっている。「工務店です」、と父親の職業を話していた。苗字が「竹中」でなくて、ちょっと安心。

(秀)