第5話 ■ネクタイのタグ
- 1999.04.15
- コラム
「良いネクタイですね」と言われて、喜んでばかりではいけない。「上着、お預かりします」というのは親切ではなく、それ以上の目的があるのだ。相手は飲み屋のお姉さん。ネクタイを手に取り、素早く裏のタグを確認する。この客は金持ちかどうかを手っ取り早く確認する、最も手軽で確実な方法である。もちろん、時計も見られている。ヨーカドーや西友で買っているネクタイに大したタグが付いているはずはない。新入社員当時に丸井で買い揃えていたときの方がむしろ良かった。同様にスーツのタグも見られているのである。ついでにネームも。彼女達にとっては客の名前を知る手段でもあるのだ。
しかし、なんでネクタイという奇妙なものが存在するのだろうか?。かと言ってスーツにノーネクタイでは逮捕された人みたいでとっても格好が悪い。逮捕されたら、ベルトも外されるらしい。どうやらそもそもは、戦闘服の名残らしい。ネクタイの柄で死傷者の身元を確認していたそうだ。負傷したときには包帯にもなる。職場は戦場、と言うことだろうか。
かつて、ネクタイをシュレッダーにかけたことがある。わざわざそうしたのではなく、もちろん巻き込まれたのだ。体が前のめりになって、すぐに機械は止まったが、逆回転のボタンを押すとそのネクタイは爆発コントのそれみたいな姿で戻って来た。そんな時に限って高いネクタイをしている不運を恨んだ。けど逆の効果もあり、たとえ安いネクタイでも高いネクタイを締めていると、周りが勝手に思ってくれるようになった。その後に外出を控えていた私は、ネクタイの残骸を手に多くの人の嘲笑と引き換えに「笑い賃」(一人、100円以上)をせしめ、駅の売店に急いだ。
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