第614話 ■ドナドナ

 先週末の東京での狂牛病騒ぎ。結果、シロだったが、第一報をWebのニュースサイトで見たときは驚いた。「東京中央食肉市場」と書かれていたその場所は、やはり品川駅港南口(東口)にある、先日も通ったところだった。ニュースで出てきた場所が自分の身近や何度も通ったところだったりする。前にも書いたが、現実感というのはこんなものだろう。しかしながら、どこかで自分の食べるものは大丈夫だろうと思っていたりする。

 食肉市場とは屠殺場のことである。このため牛を積んだトラックが場内に入っていくのを見たこともある。まさにドナドナ。悲しそうな瞳で肉牛が見ている。道を一本挟んで、屠殺場とインテリジェントなソニーの本社ビルが並ぶ異様なエリアだ。

 続いては品川駅の隣、田町駅近辺での話。駅の近くに警視庁三田警察署がある。朝の8時40分頃にこの場所を通ると、大きな護送車が署の正面玄関前に横付けされていることがある。中には既に何人かが乗せられている。そこに手錠と腰紐を付けられた何人かが玄関から出て、護送車に乗せられていく。行き先はおそらく検察庁だろう。いわゆる「送検」というやつだ。護送車は最寄りの警察署を巡回して、容疑者をピックアップしているのだろう。このときも私の頭の中ではドナドナのメロディが流れている。彼らも悲しそうな瞳でうつむいている。

(秀)