第621話 ■人生ゲーム ハイ&ロー

 確か20年ほど前だろうか?。いや、それよりもちょっと前だったような気がする。月曜日の夜7時半からのTBSは「人生ゲーム ハイ&ロー」という番組を放送していた。私の記憶が確かならば、大場久美子の「コメットさん」から「刑事犬カール」と続いた時間帯の後番組で、スポンサーはそのままブラザー工業だった(はず)。

 司会は愛川欽也。視聴者の3家族(の親父)がサラリーマンとして社長までの出世を競うすごろくゲームである。この3家族が毎回それぞれ胡散臭い。夫婦(何故か若い感じの夫婦は出ない)と子供一人の組み合わせであるが、子供は娘の場合が多く、お嬢さん崩れの娘がよく出ていた。髪は染めていないし、もちろん、化粧気もない。たぶん今時はあまり目にすること無いだろう。しかし、実際はお嬢様なわけがなく、賞金、賞品目当ての家族たちである。「○○さんは社長さんだそうですが、今日は平社員からスタートしていただきます」、という司会者からの紹介がわざとらしい。見るからに大きな会社の社長ではなさそうだ。

 ルール自体は非常に単純で掲示板のトランプをめくりながら、駒を進める。一定のマスおきに「課長」や「部長」と出世を重ね、時間内に最も早く、社長にゴールするか、ゴールする家族がいない場合はゴールに最も近い家族が優勝となって、最後にボーナスゲームの挑戦権を得る。単に進めば出世できるところが(かつての)年功序列、それに転職もしない、終身雇用をベースにしていた。ボーナスゲームと言っても、当時の懸賞法の制約で最高でも100万円。ここでボーナスゲームで100万円を手にしてしまうと、それまでに獲得した商品を放棄するか、商品を手にする代わりにその代金分を現金から減額されてしまう。

 各マスでは司会者が読み上げるクイズに答えることで、家電品や旅行などの商品がもらえた。クイズの回答は二者択一の「ハイ&ロー」、大きいか、小さいかである。ルールが複雑すぎると視聴者が離れてしまう。ルールは出来るだけ単純な方が良い。しかし、この様な番組ではハラハラ感がそれ以上に大切である。この点において、この番組は番組に出ている参加者間は商品の横取りのルールがあるなどハラハラ感を十分に楽しめたと思う。ただ、クイズは低レベル、特殊な能力など関係なく、運だけで楽に賞金や商品が獲得出来るとなると、テレビを見ている側は全く面白くない。

 それに何より、「キンキンカード」というルールで他家族の獲得商品を横取りする時の彼らの露骨に欲望をむき出しにしている姿。例えば、司会者が、どの家族の何が欲しいか聞く前に、それをコールしたり、指を差しながら、ヒソヒソと何が良いか家族で話し合っているシーンが画面に映ったりすると、あまりもの強欲ぶりに辟易してしまう。この人間臭さを冷静に観察して笑うには良いサンプル番組だったと思うが、さすがにその当時の私にはこのような感性は持ち合わせていなかった。

(秀)