第673話 ■任官拒否

 私の周りに元自衛官や防衛大学卒という人が何人かいる(いた)。彼らは総じてイメージどおり、タフで礼儀正しく、しかも後輩の面倒見も良く、仕事をやる上では非常に好ましい。飲み会の席では、「匍匐(ほふく)前進」なんて芸も披露してくれる。もちろん、場は一気に盛り上がる。

 防衛大学を卒業したからには自衛官に任官し、幹部候補生として国防のために身を捧げるのかと思うと、必ずしもそういう人ばかりではなく、毎年卒業生の何人かが任官を拒否し、そのまた何人かが私の周りで働いていたりする。元海上自衛隊員だった人は、潜水艦で….(ことの性質上、詳しく書くことは差し控える)だったらしい。

 ある日数人で食事をしていたとき、そのうちの一人の汁椀の持ち方が変であることが話題になった。その持ち方とは、左手の親指、人差し指、中指の3本を使い、人差し指で椀の内側をあとの2本の指で外側を押さえた形(さあ、やってみよう)で器用に椀を口まで運んでいる。

 指摘された人は気まずそうに、防衛大学出身で任官を拒否したことを告白した。金属製の食器のため、熱くて汁椀を普通に手の平に載せたような形で持つことはできない。このため、皆このような持ち方をし、一旦身につくと直らないらしい。一方、その持ち方を指摘し、「そんな食器の持ち方をするのは自衛隊か刑務所に入っていた人」と断言した人は父親が自衛官だったと告白した。