第750話 ■ソーダ水

 私はソーダ水が好きだ。あのエメラルドカラーの透明溶液には心が和まされる。汗をかいたグラスのそれを眺めているだけで癒される。サイダーや他の炭酸飲料水に比べると、その泡の量や立ち上る泡のスピードも控えめな上、「ソーダ水」という控えめな名前にも奥ゆかしささえ感じられる。それでいて、コーラやサイダーの様に冷蔵庫で待っているわけでなく、どこかよそ行きの飲み物の感じさえする。

 私がこんな感情を抱くようになったその原因の一部は粉末ジュースの素にあると思う。駄菓子屋で1杯分1袋、10円で売られていた。白がベースの袋にはソーダ水の入ったグラスの写真が印刷され、バックには水玉模様が印刷されていたような記憶がある。それを水に溶いて飲む。ミネラル水があるでなく、浄水器があるでもなく、水道水に溶いただけだがそのジュースはとても旨く感じられた。ソーダ味(メロンソーダ)だけでなく、いろいろなフルーツ味の粉末も並んでいた。もちろん、果汁など一切入っていない。また、袋に入ったものではなく、瓶の形をしたビニールポリ容器に入ったものも駄菓子屋で売られていた。

 「そんなものを飲んでいると腹を壊す」と、よく家族に怒られたりしたが、別にそれはそのジュースの素に問題があるわけでなく、それを溶かして飲むまでの環境が手が汚れたままと衛生的でなかったり、他にいろいろなものを飲食していたことが原因だったりした。それでも家に持ち帰ってジュースとして飲むには後ろめたさがあり、駄菓子屋の店頭で、粉末をストローで吸い上げ、咳こんだことも何度となくある。

 当時もスーパーなどでは20杯分ぐらいの袋入りの粉末ジュースの素が売られていた。代表的なものは「渡辺のジュースの素」だろう。ジュースや炭酸飲料水が高価であった時代にその代替物として登場したが、缶入りジュースの台頭で、もはやその影は薄い。喫茶店などで口にするソーダ水に比べれば、粉末ジュースなどやはりチープでしかないが、懐かしさは通じている。だからソーダ水はノスタルジックな味がし、心が癒されるのさ。

(秀)