第784話 ■電子投票

 岡山県新見市の市長選挙と市議会議員選挙に本邦初の電子投票が実施され、翌日月曜日の新聞各紙は「開票作業25分」と見出しをうち、おおむねこの電子投票を評価する方向でこれを報じている。そして、いっきに更なる期待も膨らむ。「自宅でも」、「携帯でも」、あるいは「コンビニでも」と。反対、反対、反対、反た~い!。私は声を大にしてこの電子投票化の動きに異議を唱えたい。

 今回の投票システムとは投票所に設置されたタッチパネル式の端末を使用して、画面に表示された候補者名をタッチすることで投票の意志を表示するものらしい。市長候補ならまだしも、市議選挙となると候補者の数も多く、その全てを一度に画面表示させるのは困難となる。よって、届け出順の遅い人はページめくりをした次の画面以降に表示されることになってしまう。階層が深くなるとそれだけでも不利になってしまう。

 それは、同じ苗字の候補者が複数いたとするますます顕著だ。本当は後から出てくる人に投票したかったとしても、先に名前が表示された候補者に誤って投票する可能性が生じる。「山田」という苗字の候補者が2名いて、「山田」とだけ書かれた票があったとしたら、現行法では、この票は両候補の得票の割合に応じて両者で案分されることになっている。間違った投票が行われる可能性がありながら、その割にはそれに対する回避策が用意されていないようだ。集計は早いかもしれないが、個々の投票時間は間違いなく長くなる。

 そして何よりも投票の記録が物理的に残らないことが恐い。選管は選挙の異議申し立てがあった際に備えて開票した原紙を一定期間保管している。これが電子投票となると、その電子媒体を保管していようとも、ほとんど意味がない。それどころか、投票や開票の途中でデータが消えてしまうことがないのか心配でしょうがない。ハングアップしてリブートしてもそれまでのデータはすべて大丈夫だろうか?。バックアップなどは万全なのだろうか?。コンパクトフラッシュ(ニュースで見た映像ではコンパクトフラッシュカードでデータの受け渡しをしていた)でデータがダメになった例を私は数件知っている。電子手帳のメモリがぶっ飛んで、今日から先の予定が一切分からなくなってしまった人もいる。紙の手帳であればこんなことにはならない。

 電子化、電子化、と騒いでいる割にはメモリカードを物理的に集めなくてはならないなど、システムと呼ぶにはちょっと悲しい。ある部分を人の手に委ねることがセキュリティ面での対策かもしれないが、人が行う故の人為的なミスでのデータの消失など、いつか大きな問題が起きないか気が気でない。これに在宅や携帯でとなると、更に本人確認のロジックが必要になる。しかしこれはどんなにITが発達しようとも、指紋なりを役所に届け出るでもしない限りできっこない。天気が悪かろうと、わざわざ会場に出向いて一票を投じることに意義があり、投票率の向上のためなどと、迎合すべきではない。投票率が低いのはそんな問題ではないはず。

 もし、万全のシステムを作るとなると、各投票機はATM並みの規模になりかねない。それに比べれば、人海戦術で日当や時間外手当を出した方がはるかに経済的である。あの電子投票システムで一儲けしようという奴がいるに違いない。あるいはあのビジネスモデル特許で儲けようとしている奴もいるのだろう。今まで通りの紙への記入方式で良いではないか?。データ消失などの事故が起きてからでは取り返しがつかないぞ。

(秀)