第796話 ■「あこがれ」を探して

 「春が来た。少年は眠いどころではなかった」。確か、こんな書きだしだったと思う。気になっていながらも、いつもは忘れていたものが、何かの弾みで、急にまた気になりだして来る。そんなことがないだろうか?。私の場合はよくある。中学校の国語の時間に習った「あこがれ」をもう一度読みかえしてみたくなった。そもそも当時から好きな短編小説だった。

 その作品が載っていたのは東京書籍発行の中学三年国語、「新しい国語」(確か、「上」)だった。私が中学三年だったのは、昭和56年のことだが、その後家庭教師のバイトをしていたときにも見かけたので、昭和62年まで載っていたのは確認している。中学生の少年が主人公で、話の中で一つ年上の隣に住む女性と、父親に対する二つのあこがれが描かれている。この年頃の男性は年上の女性を好む傾向にある。

 ふと、これを読みたかったことを思いだした。読みたくなったと言っても、その教科書が今も手元にあるはずない。インターネットで検索してみる。あいにく東京書籍のホームページでは教科書の中身までは紹介していない。それに、今はもう載っていないかもしれないし。作戦を切り替え、検索エンジンで「あこがれ 中学 国語 東京書籍」で検索してみたがヒットしない。今度は「あこがれ 中学 国語 東書」で検索。すると、教員向けの指導用テキストを販売している会社(東京書籍とは別)のサイトに、「『あこがれ』(阿部昭 東書・中3)の授業」という文字を発見。もちろん、作者名など覚えていなかったが、作者が分かり、「あこがれ 阿部昭」で検索を続けた。

 運良くこの短編が収録されている短編集のタイトル(「阿部昭 18の短編」)まで分かった。以前も同様にCDに関する情報を探していたときに最も有力な情報はそのアーティストのファンが運営している個人のサイトだったが、今回も個人の読書記録を載せた日記系のサイトがこの短編小説集の名前を教えてくれた。陰ながら感謝。そしてインターネットの奥深さに改めて驚く。

 既に絶版ながら、この本をインターネットで古本屋から購入することが出来た。この間、最初の本探しから約30分。本当に便利な時代だ。そして今日、その本が届いた。「春が来た。ところが、少年はねむいどころではなかった」、というのが正しい冒頭だった。これより、懐かしさを胸に頁をめくろうと思う。

(秀)