第810話 ■着信の悲劇

 胸ポケットの携帯電話が突然震え出した。足元からの振動でしばらくそれには気づかなかったが、確かに胸ポケットの携帯は光を放ち、振るえている。今手が離せない。文字通り手を離すわけにはいかない。こんなことなら電源を切っておくべきだった。ブルブルとした振動がおさまると、今度は高らかに着メロの「ミッキーマウスマーチ」が鳴り始める。周りからの失笑と視線に耐えられず、とっさに誤って「通話」ボタンを押してしまった。

 「もしもし、小泉だけど、秀野君か?」。
 「あっ、部長。秀野です。今ちょっと取り込んでまして….」。
 「いゃ、すぐ済む。すぐ済むから。休みのところすまないねー。例のファイルの件なんだが…」。

 そのときちょうど頂点に達した。

 「ぎゃー!」。
 「おーい、どうした。秀野、秀野~」。
 周りの歓声とともに、私たちを乗せたビッグサンダーマウンテンは一気に急降下を始めた。
 「…..」。

<もちろん、フィクション>

(秀)