第9話 ■田舎のウォークマン

 田舎ではウォークマンが売れない。人が少ないからではない。電車に乗らないからだ。「これは電車がない」の不幸その2である(詳しくは第1話参照のこと)。それでも誘惑に駆られてお年玉なんかで買ってみる。けどそれをどこで使うかというと、結局は家の中に行きついてしまう。彼らの主要交通手段が自転車だからしょうがない。歩きながらウォークマンを聞いている人は周りから奇異の目で見られる。ましてや交通手段への乗り継ぎなしに、ひたすら歩いて目的地に行くことなどほとんどない。もし近距離なら、ウォークマンはいらない。学校に持っていって友達に自慢しようにも、先生に見つかれば、即没収である。よって、家の中で使うことになってしまう。

 となると、今度はヘッドホンのせいで「どうして呼んでも返事をしないんだ」と親父やお袋に怒こられてしまう。そのうち電池代が続かなくなる(当時は乾電池)。そして、ウォークマンを買うような人はテープを作るためにラジカセやコンポを持っているか、あるいは買おうと強く願っている。というわけで、田舎のウォークマンは日陰の存在に追いやられてしまう。

 品川のオフィス(ソニーのこと)にいてはこんな状態まで分かるはずもないだろう。「購買力がない」、「音楽に関する興味が低い」という結論は誤りである。電車がないから売れないのだ。同様の理由で田舎のKIOSKは寂れている。