第924話 ■「壊すな」と叫ぶ人々(1)

 最近、建造物の解体を巡り、私にとって非常に不可思議な事象が起きている。まず最初は滋賀県の豊郷小学校であるが、そもそもそれほど大騒ぎして保存するような建築物なのだろうか?。まあ、有名な建築家が設計して価値があると言うのなら、そんなものは子供の手から取り上げて、保存すれば良かろう。

 小学校自体は町のものであり、その善良な管理者として町長がそれを担当している。正当な手続きさえ行われていれば、その解体作業を遂行するのは町長の職務の一環である。それに対して裁判所は何故解体工事の差し止めの仮処分を出したのだろう。このあたりがどうも伝わってこない。

 「町長は建設業者と結託して、公共事業を増やしている」との声も聞こえてくる。町長に関するこのそもそもの不信感が基礎にあって、たまたまそれが小学校の解体・建替え工事を機に住民達の臨界点を超えたのだと思う。その舞台として、豊郷小学校は有名な建築家の設計とあって、格好な舞台となり得て、全国のニュースにもなった。

 それにしても保存を唱える地元住民の会の主張にもおかしな所がある。現校舎を保存し、同敷地内に別の新校舎を建てることにした町長の決定に異を唱えている。目的が保存だけでなく、授業を老朽化した現校舎で行わせようとしている。当事者の子供や保護者にとってはとっても迷惑な話だ。子供は伝統とか有名な建築家よりも、綺麗で新しい校舎に望んでいるに違いない。

 今回この事件で最も被害を被ったのはこの小学校の校長先生(当時)だ。混乱の責任をとって辞職している。自らの責任ではないのだろうが、子供達に詫び、辞表を出した。本心は面倒から逃げ出したい一心だったかもしれないが、たまたまその小学校にその時期に校長として籍を置いていたがためにこんな目にあってしまった。町の教育委員長も入院中らしい。町長も職が危うくなっているが、まずは先行して2人が犠牲者となった。まさに恨みの建造物。

(秀)