第927話 ■スカイラインの迷走

 私のコラムの中で最も登場回数が多い車は間違いなく、スカイラインだ。それは私が初めて買った車であり、今に至っても最も愛している車であるからに他ならない。「ならば、今もスカイラインに乗っているのか?」と訊かれると、しゅんとなってしまわざるを得ない。あいにく、最初のスカイラインには1年ほど乗っただけで、それからはスカイラインから遠ざかって久しい。

 そこで、スカイライン2ドアクーペの復活の話であるが、これまたがっかりであった。現在の11代目が登場したときにもコラムで書いたが、顔つきがそもそもらしくない。その顔にクーペのボディラインや尻を付けても当初の印象が拭い去られるような事はない。丸いテールランプが復活してもそれはスカイラインの象徴である、あの丸とは全く別物だった。中途半端にさえ思える。むしろ、歴代のクーペのあの美しいラインを思い出してしまう。

 今テレビで流れている、このスカイライン2ドアクーペのCMは何なんだろう?。新型クーペが映し出されている時間よりも、回想シーンとして歴代の(3代目箱スカ&4代目ケンメリ)スカイラインが映し出されている時間の方が長いのではとさえ思える。新型車の魅力らしいものは微塵も感じられない。その回想シーンに一人の少年が登場する。その少年が大人となったという設定で今回の新型車とともに登場する。時代背景から想像するに、年齢的には私よりもちょっと上ぐらいになると思う。

 あの頃父親が乗っていたスカイラインを思い出し、そこに憧れと郷愁を感じ、新しいスカイラインを選ぶ、というCMコンセプトなのだろうが、30年ほどの時間を経てしまっていてはすでにそれは名前が同じという以外に何ら共通点などない。新しいクーペに乗ってかつての思い出や懐かしさなど感じられるはずもない。過去にこだわり、新しさを何ら訴求することのないこのCMを見るたびに、スカイラインやそのスタッフ陣の迷走がうかがえる。

 あのCMの男性&少年とほぼ同年代の私は当時、箱スカやケンメリに憧れ、遅まきながらジャパン(5代目)を8年落ちで買って走った。同じように、かつての憧れだけでなく、実際に歴代のスカイラインに乗っていた人もいるはずだ。我々はそんな年代だ。今の型も全く別の車としてみればそこそこいい車であろうが、かつてスカイラインを自分の手にした(例え中古でも)とき以上の感動が感じられる車では残念ながらない。私がスカイラインから離れて久しい理由はここにある。かつての感動や興奮を呼び起こしてくれるスカイラインに出会いたい。伝統とはそんなもんだと私は思う。

(秀)