第926話 ■人生最悪の日の確率

 まずこの日最初の不幸は就業開始まもなく、何の予告もなく現れた。「検索したいデータがない」という一言で、そのデータベースを開いてみたら、そのデータベースから大量にレコードが消失してしまっていた。そのデータベースの管理者は私である。慌てた。何が原因かは分からないものの、消失したデータは戻ってこない。不運は重なるもので、バックアップデータは一週間ほど前の状態のものだった。別にこれで会社が潰れるようなことにはならないが、データが全失して復旧ができなかったとなれば、私はそのまま会社を飛び出して、失踪でもしかねないほどのデータである。多少でもバックアップデータから最新の状態に近づけるように時間を費やす羽目に。けど一日では到底修復できる内容ではない。

 続いての不幸は、HUBが壊れた。ネットワークケーブルの集線装置である。こんなもの、そうそう壊れるものではない。確かに機械だから壊れることはありえるが、パソコンのデータが吹っ飛んだりする確率に比べると、その確率は極めて低い。そして、不幸はそれだけではなかった。夕方には私が管理しているイントラネットのサーバがこけた。

 確率的に考えれば、潜在的にそれぞれの障害はリスクとして織り込み済みである。ただ、これが同じ日に起きるなどとは思っていない。一つの障害を修復する間に次の障害が起きている。仮にそれぞれの障害が100日に1度(実際にそれほどの頻度では起きないし、そんな頻度で起きると困るのだが)の割合で起きると仮定すると、この3つの障害が同じ日に起きる確立は100万日に1度ということになる。ちなみに人間の寿命は約3万日でしかない。

 運だとか、占いとかは信じていないが、3つ目の障害が起きた時点から、「次は何が起きるんだ?」、「今日、無事に家に帰り着くかな?」という気がしてきた。もちろん精神的にも相当まいってしまっている。結果として、それぞれの障害の修復のため、いつもより帰りは随分遅くなったが、無事家にはたどり着いた。但し、駅のホームでは大幅に白線からさがり、最寄駅からのバスを降りてからはオヤジ狩りにあわぬように、キョロキョロと、いつもの20%割増の早歩きでの結果である。100万日に1度の不幸な1日が間もなく終わる。メルマガの配信ボタンを押すが、はたして無事に届くのやら。

(秀)