第941話 ■納車待ち

 通販で何か物を買うとする。実際に物が届くまでの間も楽しいが、それ以上に、「買った(買う)からにはすぐに手に入れたい」という気持ちが遥かに勝っている。できるものなら現物を見て、その場で持ち帰りたいと思う。このために、例えば秋葉原の街をグルグルと目的の商品の在庫を持っている店を探し回る。やっと見つかっても多少高いかもしれない。そしてその価格差が持ち帰りできる満足度に見合うかどうかを判断する。

 大きなものや高額なものになると、なかなか即持ち帰れないものが出てくる。車なんかまさにそうだ。実印や保管場所証明書(もちろん、所轄警察署での決裁が済んだもの)などの必要書類を全部携えて、カーディーラーに向かい、ショールームにある展示車両を指差して、「この現品でいいから、明日ナンバー付けて持って来て!」と言ってみたいものだ。もちろん現ナマも添えて。そういうことに先方がそもそも対応してくれるかどうかは分からないが、通常新車の場合、数週間や条件によっては一月以上も待たねばならないことがざらだ。

 というわけで、私も先月末に新車購入の注文を出しながら、納車は3月1日ということになった。不景気で販売状況が芳しくないなら、車は余っていそうだが、それにも増して生産を絞り込んでいるようだ。ラインを縮小するということを考えると、5.数パーセントの失業率というのもリアル感が増してくる。今頃は生産ラインに乗っているのだろうか?。

 2台目の車を買ったときだから、15年前のことになる。中古で買ったスカイラインの次に買ったのは「アルト・ワークス」という軽のターボ車だった。初めて買った新車であったため、納車にこれほど時間が掛かるとは思っていなかった。そしてやはり待ち遠しい。納車を明日に控えた日の夜遅く、彼女と二人でそのディーラーへ向かった。もちろん営業時間は終わっている。ロープが張られ、オレンジ色のライトに展示車が照らし出され、その奥のほうにピカピカのワークスの姿を発見した。ナンバーが既に付いているのかあいにく見えないが、その方を指差して、「あれだよ、きっと」と二人で、しばらく眺めていた。

(秀)