第966話 ■妄想・どこでもドア

 良いことは続けることが肝心である。たとえ人目につかない小さなことでも続けてさえいれば、どこかで誰かがちゃんと見ていてくれるものだ。そのかいあって、私のところに「ドラえもんアカデミー」なる発信元でメールが届いた。「どこでもドア限定予約販売のお知らせ」。

 単に日頃の善行だけでなく、以前私がこのコラムで書いた、どこでもドアの値段を2億円と値付けしたことも影響しているらしい。メールの文面にそう記されていた。そのため予約販売の値段も2億円と記されている。はなから嘘やいたずらと決め付けてしまうことは容易い。おそらくそういう理由でチャンスをダメにした人は多かろう。よって順番が私にまわって来たのかも知れない。

 2億円という価格が実に微妙である。そうやすやすと手が出ないのは確かであるが、実際に買って利用法次第ではあっという間に元が取れるのは確かだ。いくつかの疑問点があったので、そのメールに返信をうってみた。すると私の質問にきちんと回答がなされているが、質問を送った直後にその返信が届く。「時空メール」という技術で、メール自体がタイムスリップして送受信されるらしい。

 「分割払いは可能か?」という質問には、「貨幣価値の著しい変化がこれより起こるので不可」との返事だった。どうやらインフレが来るらしい。2億円というのも期間限定ということで、2112年では到底そんな値段では買えないらしい。「納期は?」という質問には代金が指定口座に振り込まれれば「時空運送」で即納品されるらしい。

 とりあえず、銀行に行って相談してみよう。「あのー、融資をお願いしたいんですが」。「はい、いらっしゃいませ。ところで、おいくらほど必要ですか?」。「2億円。いや、消費税分もお願いして、2億1千万円」。「….、何にお使いでしょうか?」。今度はこっちが黙り込む番だ。私の年収で借りれる額は5千万円、しかもその不動産を抵当にするのが条件である。「しかし2億円というのはたいそうりっぱな邸宅ですね」。「いや、別に家を買うわけじゃないんですが」。「…、???」。

 これで5軒目だ。「どこでもドア」と言おうにも語尾は声が小さくなってしまい、「はい?」と聞き返される。気を取り直し「どこでもドア」と言った途端に塩を撒かれるかのごとく追い出される。警備員に脇を掴まれ表に放り出されたこともある。こうなったらサラ金でも何でも利用して2億円をかき集めるしかない。しかしこれには綿密な返済計画とどこでもドアを利用したビジネスプランがないといけない。それを考えようと思った途端に、「どこでもドア限定予約完売!」とのメールが届いた。ショック!!。

 完売通知メールには続いての予約販売として「タケコプター」の案内が載っていた。今度は二百万円。かなり現実的な値段だ。納品されたばっかりの新車を売り飛ばして、カードローンなりを利用すればすぐにでも何とかなる金額だ。これを利用して金を貯め、次回の「どこでもドア追加予約販売」を待つことにしようか?。ただ、「実際にタケコプターで空を飛ぶ際は首が痛いです」という注意書きが気になって、正直なところ、買おうかどうかまだちょっと迷っている。あなたならどうする?。