第214話 ■退職金

 巷で話題の新潟県警本部長と関東管区局長(監察官)の話である。今回の報道でいろいろと隠蔽していた事実が露出して来ているが、ようやく「退職金辞退」という情報を受け、世の多くの人は溜飲を下げたところであろう。しかし、実のところ、世論の多くは監禁されていた女性が救出された当日に本部長が出張で県警本部に戻らなかったことや県警が監禁事件について虚偽の発表を行ったことよりも、その出張が本来不祥事を監察すべき監察官の接待であったこと。その場で、図書券とは言いながらも掛け麻雀をしていたこと。監察官は接待を求め、最初から遊興目的、県警本部にいたのはわずか15分で本来の監察をサボっていたこと。むしろこれらに腹を立ててはいないだろうか?。さらに批判の対象は広がる。それぞれが辞職したが、これが懲戒による免職でないため、退職金が支払われるということである。最終的にこの事がダメ押しとなって世間が騒いでしまった。マスコミが退職金という庶民感情に訴えて、世論を扇動し、「退職金辞退」という結果をもたらした。

 不思議なことがいくつかある。なぜ今回の事件が明らかになったのだろうか?。善し悪しは別として、警察からこうも簡単に身内の秘密が流れるものだろうか?。不謹慎かもしれないが、警察はこの程度の秘密を何故隠し通せなかったのだろうか。よく最近の警察の不祥事で組織構造上の問題が指摘されている。キャリアとノンキャリアの問題である。今回の件は(も)ノンキャリアの職員がリークしたのではないかと、かんぐってしまう。警察とはそんな組織なのだろうか?。

 当初本人達は自ら辞職することで事態は収拾し、とりあえず退職金を手にして幕引きできると思ったに違いない。掛けに出たのだ。今回の処分は、管区局長が不処分、県警本部長が減給20パーセント1ヶ月の懲戒であった。これに対しては「身内に甘すぎる」というのが大方の意見である。確かにそうだ。しかし、この中途半端な処分が辞職と退職金辞退という結果をもたらした。降格でも左遷でも行って、ほとぼりが冷めた頃に、ひっそり辞職するなり、定年を迎えられるようにした方が、本人達には温情のある処分だったと思う。

 ところで、今回の事件が果たして、それぞれにとって3千数百万円の金銭的価値に値するのだろうか?。退職金が受け取れないということは、30数年間にわたる(であろう)、これまでの勤務が全否定されたわけである。1万円の図書券どころか、一夜にして二人はあわせて7千万円をすってしまったわけだ。債務超過に陥れながら、退職金を返還しない、一部の金融機関の経営陣よりも、よほど潔いと思ったりする。その一方で、他人の幸福をねたんだり、他人の不幸を喜ぶことは最も悲しく、恥ずべきことであることをマスコミも世論も忘れてしまっていることがとても悲しい。

(秀)