第870話 ■ラムネ
お好み焼きを食べながら、飲むにふさわしい飲み物と言えば「ラムネ」と、私はそう決めている。小学六年生のときに「新年会」と称し、お年玉を元手に街に出て、友達とお好み焼きを食ったときからそうである。調子に乗って2本も飲んだ。私と同意見の人が世の中にどれぐらいいるか分からないが、お好み焼き屋のメニューのドリンクの欄にラムネが並んでいる確率は私の経験上、極めて高い。是非皆さんにも注意して観察していただきたい。私と同意見の客がそこそこいるから店に置いているのだろうし、主人が私と同意見なのかもしれない。
あのビンでの飲みにくさがたまらない。そして、開栓時に吹きこぼれた際の「あー、もったいない」という気持ちが切なくて良い。ビンと一緒に店員がコップも持ってきたりするが、コップに移して飲んだのでは意味がない。単なるゲップの出やすいサイダーになってしまう。難点は量が少ないこと。あのボディラインと、ガラスの厚さに誤魔化されてしまいがちだが、内容量は200ccもないのではなかろうか?。
駄菓子屋の冷蔵庫にもあのビンは眠っていた。冷蔵庫の取っ手の部分に紐で栓抜きや牛乳ビンのキャップを取るための…えーっと、あれは何ていう名前なんだろう、「キャップ開け」とでもしておこう…と一緒にラムネの玉押しがぶら下がっていた。糊付けされた口の封紙をむしり取り、玉押しを口にセットして一気に押す。ゆすったはずもないのに、無情にもラムネは吹きこぼれる。慌ててビンの口に自分の口を付ける。その玉押し、古くは木でできたもので、いつの間にかプラスチックのそれに代わって久しい。
「どうやってあのビー玉入れたんだろう?」と思う人も多いかと思う。テレビであのビンを作るシーンを映してその謎に答えていたが、要は一旦、肩の部分と言うか、上から最初のくびれまでの部分をまず成型して、そこにビー玉を入れて、その後、口の周りを成型するというものだった。それを実際は形を整えるために、ビンを回しながら行うらしい。しかし、それ以上に私が不思議に思っていたのは、「毎回毎回、どうやってあのビー玉を上げて栓をしているか?」、ということだった。本当かどうか分からないが、ある人が「ビンにラムネを入れて、口を押さえて、ひっくり返す。そしてこの状態でちょっと温めると中の炭酸がビー玉を押して、ビー玉が固定される。それからビンを戻すと玉は落ちてこない」と教えてくれた。
最近もラムネは従来のビンのスタイルで出荷されているが、ビンを回収する仕組みを幅広く運営していくのは難しく、次第にその販路が狭まっていく。その代わりと言っては何だが、缶に入ったものが登場したり、回収不要のプラスチックビン入りのものがスーパーに並んでいたりする。買い求めて飲んでみるもはやり雰囲気が今ひとつ盛り上がらない。たとえ、成分や製法が一緒であっても、ガラスビンの持つ冷たさがプラスチックビンでは伝わってこない。特に口の部分が。また、中で動き回るビー玉の座りが悪い。ちゃんとあれは引っ掛けるところがあって意味がある。飲み終わったら捨てるために分別しなければならない。口の部分は逆ネジになっていて、右に回すと開く。中からビー玉を取り出す。昔はビンを割ってでも取り出したかったビー玉がこんな形で手に入るようになった。もはやそんなことを喜ぶ年齢ではないが。
(秀)
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