スティーブ・ジョブズのある言葉で、私の考えや人生は大きく変わった。別に私は、アップルの製品の信奉者でもなければ、狂信的に彼を慕っているわけではない。ただ、彼が2005年にスタンフォード大学の卒業式に招かれて行ったスピーチの内容を知って、大きく心を動かされた。今でも啓示としてたまに読み返している。

 締めに「Stay hungry, stay foolish(ハングリーであれ、フーリッシュであれ)」という言葉が出てくるスピーチとして有名だが、この話は全体が3つの部分で構成されていて、私が最も注目するのも、この最後の部分にある。彼はこう語っていた。「『今日が人生最後の日だとしたら、私は今日する予定のことをしたいと思うだろうか』。そしてその答えがいいえであることが長く続きすぎるたびに、私は何かを変える必要を悟った。」

 そしてしばらくの後、こういう言葉が出て来る。「皆の時間は限られているから誰か他の人の人生を生きることで時間を無駄にしてはいけない。」と。最初にこのメッセージに接したとき、何だか胸がザワザワしてきたことを今も忘れられない。定年を迎えたとき、「何もなくて、無事で良かった」なんてのは嫌だ。死のその瞬間に、「何もなくて、無事で良かった」なんてことが頭をよぎったら、おちおちと死んでもいられない。

 既に癌を発症し、一旦回復した頃の彼のスピーチである。だから彼の言葉にはリアルすぎる程の魂がこもっている。そして、明確でわかりやすい。実は、前述の質問に「いいえ」が続いている人の方が多いのではないかとさえ思える。そして、多くの人はそんなことを考えてみようとすらしないのではなかろうか?

 どんな生き方をしようと、最期に「いい人生だった」と言って死ねることが人生の目標だ。ただ多くの人は本当にやりたいことはやれずに、またそのうちの幾人かは本当にやりたいことなど気づかずに死んでいく。彼が前述のスピーチをしたときの年齢は50歳だった。私もその歳に並んだ。もちろん彼には遠く及ばないが、幸いにも私は健康である。そして、他人の時間ではなく、自分の時間を生きている。

(秀)