子供のころよく通ったその駄菓子屋は通称「こども店」と呼ばれていた。看板には「井上商店」と書かれているにもかかわらず。だが、うちの母親などは「かっちゃんがた(『がた』は○○の家の意の方言)」と呼んでいた。理由を尋ねると、こども店は婆さんが一人でやっているが、その婆さんに息子がいて、その子の名前が「かっちゃん」ということらしい。それからしばらくして、夏休みなどに子供を連れて帰って来るおじさんを見掛け、「この人が、かっちゃんだな」と思ったりした。蛇足ながらうちの隣の八百屋は「山田青果店」と看板を掲げているにもかかわらず、家族達は「ゴロさん」とその店を呼んでいた。店の親父さんが「山田五郎」というかららしい。

 子供達がつける名前は結構残酷である。友達のあだ名がそうであるように。周りの駄菓子屋にも様々な通称が存在した。「いも屋」、けどイモを売っているのは見たことない。「ケチ屋」、親父がケチらしい。「つり屋」、釣り具も一緒に売っていた。「ブーバッチャン」、太ったおばさんと婆ちゃんがやっていた。この店は通学路の途中、正門までのメインストリートにあったため、認知度は抜群だった。逆にこれらの店の正式店名の記憶がない。

 駄菓子屋もだいぶ少なくなってしまった。残った店も子供相手に微々たる小銭の商売で、よくやっていけるのが不思議なほどである。駄菓子とはマイナーな菓子のことである。ベビースターラーメンは今でこそメジャーになったが、元はマイナーだった。駄菓子と対極にあるのは「大人菓子」と呼ばれる、メジャーな菓子達である。駄菓子と同じ棚に「ブルボン ホワイトロリータ」が並んでいるのは良くない。今は駄菓子屋の役割をコンビニが担うようになり、こんな陳列を見ては悲しくなってしまう。