第1030話 ■迷子

 長女がまだ幼稚園のときだったので、7年前のことになる。彼女の幼稚園の遠足ということで、家族揃ってその遠足について行ったときの話。長男がその公園で迷子になってしまった。妻は用があったため、昼食を済ませると一足先に帰宅し、私と子ども二人が残った。昼食後の自由時間で一緒に来た友達と一緒にわが子ども達は遊んでいたはずだったがちょっと目を離した隙に長男の姿が消えてしまった。

 さっきまでいたから、近くにいるものと思い、あたりを探してみたが彼の姿はない。その日訪れていた公園は結構広く、樹木も多い。植え込みも多く、小さな子が身を隠すくらいの場所はいくらでもある。長女も一緒に探すと言い出すが、足手まといになるし、別々に動いて今度は彼女とはぐれては困る。ひとまず娘を友達の親に預けて、徐々にその範囲を広げながら息子を探した。

 公園にやってきて弁当を食べるまでにたどった所は何回も探した。しかし見つからない。幼稚園の先生にも頼んだ。そして、公園の事務所にも届け出た。結果として約一時間後に全く別の所で遊具で遊んでいる息子の姿を私が発見した。声を掛けると泣くでもなく、それどころか怒り出す。迷子になっておきながら、彼は私を探していたと言う。怒ることもできず、彼を抱きかかえて事務所や幼稚園の先生たちに息子が見つかったことを告げて回った。いっそのこと泣いてくれていた方が周囲は迷子として事務所に連れて行ってくれて早く解決していたかもしれない。

 そのとき彼は3歳半ぐらいだった。突然姿が消えて慌てたが、心のどこかで私自身、「すぐ見つかるさ」と高を括っていた。無事だったからこそそう言えるわけで、妻にはたいそう叱られた。この日のことを息子に話すと「うん、覚えている」と言った。

 長崎での誘拐殺人事件のことを思う。犯人が悪いのはもちろんのこと。駿くんじゃないほかの子が犠牲になっただけかもしれないが、親がしっかり自分の子の手を握っていたら、と思う。犯人を恨む一方で、きっとあの両親は自分たちを責めていることだろう。今なら私も高を括ってはいられない。ところであの犯人の少年はどんな幼児期を送ったのだろうか?。

(秀)