第105話 ■PRARA

 原宿の「AC’QUA(アクア)」という美容室のカリスマ美容師(この前このコラムに出て来た人とは別人)の一人が、カリスマどころか実は美容師の免許すら持っていなかったことが明らかになった。「忙しくて国家試験を受ける暇がなかった」というのが彼の言い分というか言い訳である。こんなことが今時分明らかになったというのは同業や身近な人間から漏れたことだろう。マスコミはさも世間全体が被害者であるかのような報道を始めている。

 今回のこの事件に対して、大きく2つの反応があるだろう。1つは「無免許とはとんでもない奴だ」、「騙された」という、怒りあるいは批判的な意見。そしてもう一方は「無免許でも本当にうまければ良いんじゃない」という容認派。私はいずれでも構わないのだが、後者の容認派の人々に問いたい。「あなたが持っているブランドもののバッグがもし偽物だったらどうする?」と。「PRADA」の三角プレートを良く見て欲しい。本当に「PRADA」だろうか。もし「PRARA」と書かれたバッグに4万も5万もつぎ込んでいるとしたら。

 カリスマも一つのブランドでしかない。偽物のブランドをカリスマと信じ込んでいたわけだ。しかも大枚をはたいて。それでも無免許美容師をカリスマとして「無免許でも本当にうまければ良いんじゃない」と認める勇気があるのなら、ブランドに関わらず、同じようなデザインで、同じような素材で、同じような製法であれば、同じ金を払ってそのバッグやアクセサリーを買い求めるだろうか?。「それとこれ(無免許カリスマとブランド品)とは話が別」という反論もあるだろうが、根本は同じ様な気がする。

 「PRARA」のバッグは松戸駅のコンコースで3千円程度で実際に売られていた。遠目に見れば「PRADA」のそれと見分けがつかない。推定原価約50円のあの三角のプレートに4万も5万も払っているわけだ。