第1060話 ■近未来事件簿・道頓堀川埋め立て騒ぎ

 平成15年、阪神タイガースがリーグ優勝した数日で戎橋から道頓堀川へダイブ人の数は6千人にも達した。中には死亡する人も出る痛ましい事態を迎えるに至って、それを境にダイブする人は一時衰えたが、日本シリーズでタイガースが勝利を重ねるに連れてタイブ熱は再度過熱していった。

 星野監督がゲーム直後の勝利監督インタービューの度に「道頓堀川に飛び込まんといてくれ!」と呼びかけるが一部のタイガースファンはそんなことなどお構いなしにダイブを続けた。ここでタイガースファンは大きく2つに分かれた。タイガースを愛し、彼らの活躍や勝利を願う点は変わりないが、従来の応援振りを省みて自粛し、「道頓堀川ダイブ反対派」が現れた。マスコミもこれに乗り、タイガースファンの芸能人も本心からかどうかはさておき、「ダイブ反対」を唱えるに至った。しかしそれらは少数派でしかなかった。

 翌年もタイガースは開幕から快進撃を続け、地元では早くもV2への期待で盛り上がり、ダイブ劇は連日繰り広げられた。これに対し、困った地元商店会や行政はいろいろな策を講じる。水質が悪いことについては、「危険だからと言って、浄化しようものなら、かえって飛び込む人が増えるんちゃうか?」と、放置されることになった。そして防護ネットを張るのが最も有効だろうということで、橋の両側にネットが張られた。これで飛び込み人がいなくなると、期待も大きかったが、何者かがこのネットを数日で切ったり外したりと、いたちごっことなってしまった。

 かくなる上は「埋め立てあるのみ」という声が府議会から起きた。かつては船により物資を運ぶ用途で利用されていたこの道頓堀川も既にその役目を終えてしまっている。しかしいざこの川が埋め立てられるとなると埋め立て反対派が世論の大半を占め、市民達がこの道頓堀川を守るために自衛的にダイブを止めさせるような運動が起きた。そのせいか、道頓堀川へダイブする人はもはやいない。しかしそれは、阪神タイガースの失速がその原因かもしれないが。

(秀)