第1070話 ■コスモAP

 私が最初に買った自動車はこのコラムでも何度か書いたが、スカイラインジャパンであった。ガソリンスタンドでバイトしながら、そこの従業員の人づてで探してもらった18万円の代物だった。小学生の頃からスカイラインは大好きだったため、わずかこれっぽっちの金でスカイラインのオーナーになって良いものか?、という迷いがありながらも飛びついた。

 しかし免許を取って最初に欲しかった車はスカイラインではなく、全く別の車だった。その名は「マツダ コスモAP」。マツダが誇るロータリーエンジンを載せたコスモシリーズの2代目である。ジャガーに似た顔立ちにU字型のテールランプ。あの真紅の2ドアクーペを実は欲しかった。この車が販売されていたのは私が小学生や中学生の頃で免許を取った頃には既に世の中から見かけなくなりかけた頃にあたる。

 別に子どもの頃からずっとこの車が好きだったわけではない。私が免許を取るために通っていた自動車教習所の待合室でたまたま見かけた自動車雑誌に載っているのを見てにわかに欲しくなった。その雑誌には「かつての名車を安く買おう」という趣旨の特集ページがあり、そこにコスモAPが9万円という値段で紹介されていた。鉄仮面のスカイラインが中古でさえ200万円のときだから、9万円というリアル感というか手頃感が私の物欲を刺激した。

 しかし実際にその車を探し出すのは困難で、人づてで車を探すに際し、候補の車としてコスモと一緒にスカイラインを挙げたために、あっけなく先にスカイラインが見つかって、思ったよりも安かったのでそっちに飛びついた次第である。市中に出回っている数がそもそも違うのだから当然のことだろう。

 人生とはとかくこんなものである。以前にもこんなことを書いたような気がする。当初の予定が一時の感情の変化で変更となったり、また戻ったり。どうしてこの会社で働いているのか?、どうしてこの人と暮らしているのか?、なんてのもこの類。コスモAPを買ったところでその喜びがいつまでも続くわけではなく、いろいろと嫌な点が出てくるかもしれない。買えなかったがためにその憧れが続くのだとしたら、それもまた人生なり。芝生は青いままでいて欲しい。

(秀)