第1071話 ■リメイク

 宅配ピザを注文して、私の場合、3%くらいの割合でオーダーとは別のピザが配達されてくることがある。人間のやることだからミスがあるのは当然のことだが、それを予測して店側もきちんとマニュアルが整備されているらしい。店と言うかチェーン側でルールは微妙に違うようだが、間違って配達したピザは「どうぞ、食べてください」というのがお決まりで、それに次回以降利用できる割引券が付いてきたり、付いてこなかったり。

 この「どうぞ、食べてください」と言う(言われる)タイミングが微妙である。「配達されたピザが間違っていました」と電話した際に、「どうぞ、食べてください」と言われる場合と作り直したピザが配達された際にそういわれる場合。この作り直しをリメイクと言うらしい。どうせもらえるなら、できるだけ早い方が嬉しい。

 しかし、この「どうぞ、食べてください」と言うのが曲者である。確かに冷めたピザを引き取っても店はしょうがないし、むしろそれを使ってクレームに応酬しようと試みる。「どうぞ、食べてください」と言われて、客側は悪い気はしない。「これは得したな」と思った途端にクレームの怒りはかなり沈静化する。いや、場合によっては店と客の力関係が逆転すらすることもある。

 ついこの間、同様の事件が起きた。「間違ってますよ」と電話した際に、「間違った分はどうぞ、食べてください」と言われた。それはズワイガニのピザで本来頼んだものより高いものだった。確かに貰っておくのも手だったが、ここはリメイクのピザが届いた際につき返してみた。配達員は鈍感だったが店長は驚いたようだ。つき返したくらいだから相当に怒っていると思ったのだろう。早速、詫びの電話が掛かってきた。しかし私は怒ってなどいない。

 「どうぞ、食べてください」という言葉にはミスに対する反省とか謙虚さがない。それどころか、怒りをものでなだめてしまおうという姑息さがある。ものをもらって中途半端な喜びを感じるよりも姑息さに屈服しない態度の方を私は敢えて選んでみた。

(秀)