第1113話 ■劇画のQちゃん

 オバケのQ太郎の劇画版というのが存在する。コンビニで発売されている廉価本コミックの藤子・F・不二雄の短編シリーズにおさめられていた。もちろん、Q太郎だけでなく、正ちゃんも劇画である。その他、他のかつて子どもたちのキャラも劇画で登場する。ただし、O次郎や他のオバケキャラは残念ながら出てこない。

 一旦オバケの世界に帰ったQちゃんが十数年後に人間界に再度やってくる話である。街の様子はすっかり姿を変え、いつも土管が積んであったような空き地はもはやない。かつて一軒家ばかりだった所も今はマンションばかりが立ち並ぶ。そこでQ太郎は正ちゃんを発見し、彼の家を訪ねる。正ちゃんは既に結婚をし、奥さんとマンションで暮らしていた。

 懐かしい話にいろいろと花が咲くが、翌日、正ちゃんは会社に行かねばならない。かまってもらえないQちゃんは昼間退屈でしょうがない。オバケの寿命は500年らしい。このため相変わらずのQちゃんと既に社会人として家庭を持つ立場の正ちゃんやかつての子どもたちとの間には明らかな溝が存在していた。

 この現実を感じたQちゃんはいたたまれずオバケの世界へと帰ってしまう。そして正ちゃんも大人となって現実の社会の中で波にもまれている。いつもの画風と違い、劇画風であるところにこのようなエレジーと言おうか、切なさがマッチしている。ドラえもんの劇画はちょっと怖いがQちゃんなら許せる。

(秀)