第1262話 ■さんすうせっと

 小学校の入学式の日に新しい教科書が渡され、それらは無償であるが、副教材の一つである「さんすうせっと」は千円での販売であった。上に兄弟がいるような人はそれを使えば良いので任意購入ということだったが、我が家にはなかったため、新たに購入してもらった。

 中身は箱の中央に時計があり、それが最も目立つ存在だった。先生の「○時□分にあわせてください」という声にあわせて裏のツマミを回す。他には、いくつか穴の開いた、赤いパチンコ玉ぐらいの大きさのプラスチックの玉とつまようじのようなプラスチックの棒。教科書では粘土玉と竹ひごとして登場したものがここでは前述のプラスチックになる。これらで四角形などの図形を作る。硬貨を模したプラスチックのコイン少々。数字を書かれたカード。色分けされ、磁石がついた花びらの形をしたプラスチック。これらがそれぞれ透明なプラスチックの箱に納められていた。それに磁石をくっつける鉄板が箱の下の方に入っていた。

 「持ち物には全て名前を書いてください」と言われて、わが父親は、さんすうせっとのそれぞれ一個一個に名前を書いたシールを貼ってくれた。当時は今のように個々の名前を印刷した名前シールなどないから細かなシールにもいちいち名前を書かなくてはならない。教室の後ろの方の個人用のロッカー(棚)に置いておいて、先生の指示で必要な際に使うのであるが、その機会は最初にこの箱を開けたときのワクワク感と期待に比べれば、ほんのわずかでしかなかった。

 今でもこの「さんすうせっと」は新入生用に販売されている。ちょっと前で二千円だった。もちろん任意購入であるが、今は不足している部分だけをパーツとして購入することもできる。

(秀)