第1273話 ■寝ずの番

 最近、テレビ番組、しかもバラエティ番組での津川雅彦の露出を目にする。なんて事はない、彼(マキノ雅彦)が監督した映画「寝ずの番」の宣伝タイアップなのだ。監督自らプロモーションと忙しい。他の専業監督ではできない作戦でもあるが。

 さて、映画の方だが公開初日に見てきた。夜、最終の回であったが、客層が普段と異なっており、そのほとんどが年輩者だった。人が死んだ晩にろうそくや線香を絶やしてはならないという、寝ずの番である。事前に新装刊となった文庫版「寝ずの番」を読んでいたが、映画はそれにほぼ忠実に作られていた。具体的な男性性器、女性性器の呼称(大阪の方の3文字)がそのまま登場する、下ネタのオンパレードである。原作は中島らも。

 落語家一門が登場人物である。まず、長門裕之演じる師匠が臨終の床にある。最後に何か願いがないかと弟子が尋ねると、聞き取りにくい声で「そそが見たい」と師匠が言う。そそとは京都弁での女性性器のことである。師匠の命令は絶対である、困り果てた弟子達の中から中井貴一が嫁、木村佳乃を説得することに、そして彼女が性器を師匠の顔の前で披露する。しかしそれは、そそではなく、「そとが見たいだった」。実にこの師匠の「○○が見たい」とそそなのかそとなのか、区別が難しい演技は見事。そしてその3分後に師匠は息絶えた。最期にまでオチを付けてしまう。

 その晩、弟子やその家族だけで師匠の思い出話を語り、ここでも下ネタ連発。回想シーンが映像で出てくる。そして最後に落語の演目「駱駝(らくだ)」での死体を踊らせるくだりを師匠を相手にやってみようということになる。師匠の死体を抱き起こし、弟子たちがかんかん踊りのステップを踏みながら寝ずの番の夜は更けていく。踊りのシーンで足の部分が拡大されたシーンでは師匠も足踏みをしていて、場内爆笑となった。

 この映画は全体が三部構成になっていて、師匠の死がまず第一部、続いての第ニ部では師匠の一番弟子が急死する。これまた寝ずの番の夜、思い出話の映像が回想シーンとなって登場する。もちろん、下ネタオンパレード。

 そして第三部は師匠の奥さんの死である。元芸者だった奥さんを巡って、師匠と競ったかつての鉄工所の社長として堺正章が出てくる。芸者に入れ揚げ、鉄工所はつぶしてしまい、今はしがないタクシー運転手をしている。奥さんへの供養と、彼女に教わった歌を披露し、中井貴一と三味線を手に歌合戦とあいなる。これまた下ネタの歌ばかり。悲しいはずの晩が卑猥な思い出話を軸としてなごみ、最後にはみんなで踊りだす。

 特にこれといった良さはないが、笑える作品だ。多分、地上波での放送はできないと思う。

(秀)