第1276話 ■ベントラ

 「今日の昼飯はてんぷらにしよう」と決まったときから、あるフレーズが頭を巡る。「てんぷら、てんぷら、テンプラ、テンプラ、ベントラ」。「ン」と「ラ」しか合っていないけど。ベントラとはUFOを呼ぶときのおまじない。

 あるクラスメイトがUFOの呼び方の情報を仕入れてきた。その彼と同じクラスだった時期と世のUFOブームを重ねると、私が小学4年生の時のことだと思う。まだ純真で、疑うことなどほとんど知らない時期のため、その友人の情報を信じて学校の休み時間にUFOを呼んでみることにした。

 4人だか、5人だったか、みんなで手をつなぎ、輪を作る。目を閉じ、「オレンジ色のUFOを頭に浮かべて」という友人の説明に熱心にオレンジ色のUFOをイメージしてみる。そしてみんなで「ベントラ、ベントラ、ベントラ」と3回唱える。目を開け、手をつないだまま上空を見渡してみた。

 田舎の空は穏やかで、カラスが飛んでいるくらい。そんなとき遥か彼方で何かが光ったような気がする。他の友人がそう言った。同じ方向を見て自分もその光を見たような、見ていないような。やがてチャイムとともに休み時間は終了した。UFOを呼んでみたのはそのとき一回きり。木曜スペシャルでは矢追ディレクターのUFO特番が話題になっていた頃の話。随分奥にしまわれていた記憶がてんぷらにより引き出された。

(秀)